(1)秦亜青・中国外交学院院長

(イ)中国の「大国外交」とは
現在中国は、自国の外交路線を「大国外交(Major Power Diplomacy)」と呼んでいる。これは、習近平政権が2014年に公式の場で、中国の外交路線を「特色ある大国外交」と表現したことからはじまった。しかしながら「大国外交」という名称は、そのような公式の発言によって使われるようになったというよりも、近年の中国外交の実態を反映して自然にでてきたものということができる。というのも、中国は、今や世界第二位の経済大国であり、多くの国にとって第一の貿易相手国でもある。そして多くの重要な国際機構や条約にも加盟している。このように中国の影響力はグローバルに拡大しており、中国外交を「大国外交」と呼ぶことは必然なのである。
ただこうした中国の外交に対して、北米、欧州、また日本、韓国などからは、力を背景にした強制的な手段によって実行されているのではないかとの疑念もでているようである。しかし、例えば一帯一路(Belt and Road)構想をみても、その推進によって他の国と共々に利益を得ようとするものであり、このように中国の外交政策は、平和共存や共栄といった他国との協力を模索して実行されている。

(ロ)中国外交が担う責任
中国の政策立案者たちは、「大国外交」を検討するにあたり、二つの責任を果たすことを考慮にいれている。一つ目は、所謂「中国夢」の実現に向けた責任である。「中国夢」においては、2021年までに中国国内を全面的に豊かにし、2040年までに中国を近代国家にすることを目指している。中国は未だに発展途上国であり、一人当たりのGDPは高くなく、貧困の削減が求められているのである。二つ目は、国際社会における運命共同体の構築に向けた責任である。現在の国際社会は、様々な問題を抱え、平和もガバナンスも不足している。このため中国は平和な国際環境を築くべく、運営共同体の構築に寄与していこうとしている。
しかしこれらの責任を果たすには、大変な困難を伴うだろう。中国は、地域間格差も含め解決すべき国内問題がまだまだ多い。こうした中で、前述の責任を果たすためにも、まず現在の中国は、平和的発展を進めているところである。平和的発展と述べると、南シナ海はどうなのかとの疑問をもたれるかもしれないが、南シナ海において、中国は急進的な手段ではなく自制した行動をとっていることを認識すべきである。もし中国が自制していなければ、とっくに紛争になっていただろう。今後、南シナ海においては「行動規範(COC)」が策定されればさらに安定していくものとみられる。次に中国は、グローバル経済への寄与も進めているところである。中国は、既存の国際システムや機構から利益を得ており、国際秩序を強力に支えていこうとしている。それは、先のダボス会議での習近平国家主席が開放型の世界経済の発展についてスピーチしたことからもわかるだろう。最後に中国は、現在の国際システムや秩序に対して、それらを自国中心のものに変えようとしているのではなく、それらを補完、強化することを進めているところである。

(2)栄鷹・中国国際問題研究院副院長

(イ)中国外交立案者たちにおける中国外交の認識変化
中国の外交政策立案者たちは、かつては中国が大国になるにはどうしたらよいのかに焦点を当てていたが、今では大国としての役割を如何に果たすことができるのかに焦点を当てるようになっている。そして、大国としての役割を果たすために、中国が「発展途上国の大国」として、あるべき社会主義のあり方を追求しつつ、国際社会が豊かに発展するための政策をとることをすすめているところである。これは、これまで国際社会における大国が、自国の利益などを追求して国際秩序を構築してきこととは大きく違うことである。ただし中国は、だからといって既存の国際システムや秩序を壊して、新しいものを打ち立てるようとしているのではない。一帯一路構想やAIIBなどによって、既存の国際社会のシステムを補完しつつ、国際社会がより豊かになるための外交を展開しようとしているのである。

(ロ)日本との関係
最近、中国の外交部では、それまであった日本課を廃止した。このことで、日本では、中国が日本を軽視しているのではないかと憶測をよんでいるようである。しかし、中国にとって、この外交部の体制変更は、現在実施している「大国外交」の中で、引き続き日本との関係を進展させていくという姿勢の表れであり、日本の重要性が低下したのではない。中国にとって日本は今も重要な大国である。特に、先の安倍首相の演説で表明された一帯一路構想に対する日本のポジティブな姿勢は、中国においてとても評価されている。ただ、中日関係においては、複雑な問題を抱えていることも確かである。こうした中では、研究者をはじめ、中日間の人と人との繋がりが引き続き重要であり、今後も拡大していくべきである。

(文責在事務局)