(1)ルペン候補

フランス大統領選挙は、従来は大政党の候補が争う選挙だが、今回の選挙では、大政党ではないアウトサイダー的候補者が台頭している。今回、極右と呼ばれる国民戦線のルペン候補が20~30%得票するのではないだろうか。ルペン候補の所属する国民戦線は1984年、欧州議会選挙で泡沫政党から10%政党へ躍進した。当時の国民戦線の集会へも私は行ったが、その集会は白人男女ばかりだった。当時のフランスの排外主義(極右)による主な攻撃ターゲットは、もともとはユダヤ系であったが、それが1980年代後半以降はムスリムの外国人へ移った。その後、国民戦線は穏健化して、勢力を拡大していった。しかし、国民戦線は以後伸び悩み、それは特にサルコジ時代に顕著であった。2006年、フランスでの移民暴動を現地で見たが、フランスには排斥主義とは別に、(移民増加による)治安悪化問題がある。「アイデンティティーの問題が重要である」と、サルコジ氏は内務大臣時代に主張し、(対移民暴動の)治安維持に注力し、国民の支持を得た。そのことによって、サルコジ氏は極右支持が伸びるのを極力抑えることに成功した。その後、現在のルペン氏へ代替わりした国民戦線は、2014年の選挙で息を吹き返し、欧州議会選挙で25%、24議席を獲得した。最近は国民戦線が単独政党としてはフランスで第一党である。ルペン候補は、「我々はデモクラシー、共和主義で、フェミニズム、男女平等主義」と主張している。ただし、それはフランス人にとってのデモクラシー、フレンチファースト、フランス第一主義である。なお、国民戦線支持者には保守的カトリック信者が多いが、ルペン補自体は敬虔なカトリック信者ではない。そして、ルペン候補の主張する男女平等主義、フェミニズムはイスラム批判であり、宗教的不寛容であるし、更に、彼女の主張する治安強化(およびテロ対策)は排外主義に結びついている。

(2)マクロン候補

マクロン候補は元社会党員であり、オランド政権で経済相を務めた人物である。彼はロスチャイルド投資銀行の元経済カウンセラー、コンサルタントでもあり、ネスレによる約4兆円の買収のディールを成功させ、数百億円の利益を得た。そのため、マクロン候補は経済界にパイプがあると言われている。彼は、オランド政権で大統領官房入りして、経済政策の舵を取っていたと言われる。一度、オランド政権から下野したが、その後、再びオランド大統領に乞われて経済相となり、最終的に昨年、大統領選挙に備えて辞任し、「前進!」という名の政治勢力を作った。それは、既存の政党ではない。このマクロン候補は今回のフランス大統領選挙の本命である。

(3)フィヨン候補

フィヨン候補は、サルコジ政権で首相を務めていた。彼は、サルコジ大統領退任後のフランス大統領選で、保守派の推す最有力候補だったし、昨年末時点でも最有力候補だった。しかし、今年1月24日、彼は大決起集会を前にしてスキャンダルが発覚し、一気に支持率が下がった。フィヨン候補支持者は、伝統的カトリック信者が7~8割である。このフィヨン候補は、公務員を50万人削減することを主張している。ちなみに、左派であるオランド大統領は、公務員削減を実現出来なかった。

(4)メランション候補

メランション候補は、極左、社会党左派、そして共産党と近い為、それらの票を取り込んで行くだろう。ルペン候補及びメランション候補支持者は、「フランス人民の為の政治」が行われることを期待している。フランスに伝統的に存在する「エリート対大衆」という対立の中で、ルペン候補及びメランション候補が支持を伸ばしている。

(5)ルペン対マクロン

ルペン候補が今回の選挙で多くの支持を集めているが、ブレクジットおよびトランプ米国大統領誕生のような予測不能な事態は起こり得る。1984年以降、私はフランス現地で大統領選挙を見て来ている。新聞等で読むのと違い、大統領選候補者の集会では実際の盛り上がり具合が判る。現在、ルペン候補とマクロン候補がトップ争いをしている。マクロン候補をルペン候補同様にポピュリズム扱いする事には抵抗があるかもしれないが、スタイル、発想では両候補には共通項がある。フランスは今、左派は纏まっていないし、保守派も極右に押されて動揺している。極右が伸び、保守派と左派が求心力を失った。特に、左派の分裂はとても大きい。保守は分裂気味ではあったが、フィヨン候補がスキャンダルで失脚し、マクロン候補が台頭している。最近(今年4月20日)の世論調査では、4人の候補(ルペン、マクロン、フィヨン、メランション)が支持率で拮抗している。左派と中道は、「ルペン候補を当選させない」ように、彼女に勝てそうなマクロン候補に投票する可能性がある。

(文責、在事務局)