(1)トランプ新米大統領台頭までの米国政治における歴史的背景

「何がトランプ政権およびその『米国第一主義』を生み出したのか」との質問に答えるには、まず近代の米国政治史を考察する必要がある。近年の米国政治は、(イ)第二次世界大戦勃発から大戦終結まで、(ロ)第二次大戦後からベトナム戦争勃発まで、(ハ)ベトナム戦争後から9・11まで、(ニ)9・11から2008年のブッシュ政権の時期、(ホ)2009年から2016年までのオバマ政権の時期、というような区分けができるが、それらすべての時期において、米国内で国際協調主義は脆弱であり主流の思想とはなっていない。反対にその大局にある米国第一主義が、常に米国政治に影響を与えていたことがわかるであろう。米国には、国際協調主義によって米国および米国民の利益が脅かされているとの考え方が強く、こうした米国政治の背景がこの度のトランプ政権誕生を後押ししたといえる。

(2)2016年米国大統領選にみるトランプ当選の要因

この度の米大統領選挙は、まさにそうした「国際協調主義vs米国第一主義」の様相を呈していた。ヒラリー・クリントン氏が人権などリベラルな価値を米国が主体的に発信していくことを訴え、かつ国際社会の安全保障体制への関与を述べていたのに対し、トランプ氏は米国の社会・政治・経済的影響力及び国民の利益に寄与する国内政治の推進を訴えた。ヒラリー氏の訴えには現実性にかけている点がみられ、トランプ氏の訴えには反イスラム・反フェミニズムといった過激主義の点がみられ、どちらにも問題点がみられた。しかしながら、これまで行き過ぎた国際協調主義が生んだ負の遺産を背負ってきたと認識している米国の中所得階級は、国内の生産力を高めて国民の生活水準を上げることを主眼としているトランプ氏の発言に、一種の希望を見出したのであった。このように、選挙期間中のトランプ氏の発言は、中所得階級以下の米国民に支持されて当選に繋がった。なお、トランプ氏支持層の中には、米国において白人の勢力が衰えてきていることに不満を抱く高所得の白人層がいることも認識しておく必要がある。

(3)トランプ政権の外交政策と国際秩序

これまでのトランプ大統領の発言や政策をみると、如何に米国の経済的利益を増大されるかが政策の中心となっていることは明らかであり、外交・安全保障、TPPを含む貿易・通商、国際交流のあり方まで、米国に経済的利益をもたらすか否かがそれぞれの行方を左右することになるだろう。これは、これまで米国が培ってきた世界各国との同盟関係に傷をつけることとなり得るだけでなく、世界の安全保障体制を危険に晒す可能性も秘めている。さらに、トランプ大統領とその側近は、北朝鮮に対する反撃能力は関係各国が米国に相当もしくはそれ以上の対価を支払うことに同意しない限り、各国それぞれで構築すべきとの考えをもっている。こうした考えは、日本と韓国の核配備に道を開くことになりうるが、トランプ支持層には、軍拡や自衛のための核配備に賛成の層が少なくなく、かつ国際問題に関心のない層が含まれており、抵抗が少ない。このように、トランプ政権は国際協調主義に乏しく、それは国際社会における同主義の牽引力低下にも繋がっていくだろう。とはいえ、今後トランプ大統領による米国第一主義は拡大していくのだろうか。国際社会においては、グローバル化の波やオートメーションによる一部職業の消滅などが進展している。こうした中では、ますます国際的な協調が必要となり、米国第一主義の思想に先はないだろう。このように、現在の国際秩序には乱れが生じてきており、予見するのが困難な世界情勢になることは免れない。

(文責在事務局)