(1)質の高いインフラ投資

現在、途上国ではアジアを中心に主に電力、道路、水、通信等のインフラ需要が旺盛であり、需要が供給を上回っており、今後毎年約4,500億ドルの需給ギャップが出るとの試算もある。我が国が2013年5月に定めたインフラシステム輸出戦略では、2020年に約30兆円のインフラシステムを受注するとした。2015年5月には、「質の高いインフラパートナーシップ」として、2016年から2020年にかけてADB(アジア開発銀行)と協力し、約1,100億ドルの「質の高いインフラ投資」をアジア地域に提供することとした。これを触媒として、民間の更なる資金等を呼込み、質・量共に充分なインフラ投資を実現し、また、各国・国際機関と協働しつつ、質の高いインフラ投資を推進したい。そして、2016年5月に、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表した。世界全体のインフラ案件向けに、今後5年間の目標として、約2,000億ドルの資金を供給する予定である。我が国はインフラの海外展開においてODAを積極的に活用している。最近の円借款による主なインフラ整備案件としては、2015年11月のフィリピンの南北鉄道計画、同年12月の日印首脳会議で確認されたインドのムンバイ-アーメダバード間高速鉄道路線における新幹線システムの導入、2016年4月にE/N署名したパナマ首都圏都市交通3号線整備計画(モノレール方式輸出)等がある。ODAは今まで民間投資の呼び水役を果していたが、インフラ案件が大型化しており,民間資金と組み合わせて資金を動員する取組が必要である。また、最近の海外投融資による主なインフラ整備案件としては、2015年6月のカンボジアの救急救命医療整備計画等がある。民間企業が実施する開発プロジェクトに必要な資金を出資・融資する「海外投融資」は、オールジャパンとしての資金動員,特にPPPインフラ事業の推進にとって有益なスキームである。なお、ODAは、途上国の開発を目的としているが、開発協力といえども、日本の国益の増進に貢献すべきだという意見もある。インフラ需要拡大に伴い、先進国に加え、産油国を含む新興国等様々な主体もインフラを供給している。2016年5月、安倍政権はG7伊勢志摩サミットで経済性及び安全性と災害等のリスクに対する強靭性の確保、現地コミュニティーでの雇用創出、能力構築及び技術・ノウハウ移転の確保、社会・環境面での影響への対応、公的資金だけでなくPPP等を通じた効果的民間資金動員の促進等を内容とする「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」をとりまとめた。インフラの質においても我が国が国際社会をリードしたい。同原則は、G20でも評価された。

(2)ODAの戦略的活用:連結性

我が国は安倍政権の実績を踏まえ、地球儀を俯瞰する外交及び国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を更に発展させる。アジアとアフリカの交わりが、国際社会の安定と繁栄に寄与する。アジアの成功をアフリカに導入し、その発展を促す。東アジアを起点として、南西アジア、そしてアフリカへ面的に成長戦略を展開する。アフリカに対しては、インフラ等の開発だけでなく、政治面・ガバナンス面でも協力する。具体的には、スリランカでは、バンダラナイケ国際空港の整備を実施中である。同空港の整備には、エネルギー効率の良いガラスの導入等の省エネ技術といった本邦技術を活用予定である。また、1980年に開始したコロンボ港開発・改善・拡張事業は完工済である。左記港はコンテナ取扱量が南アジア1位で、インド洋の「物流ハブ」として機能している。そして、主要なコンポーネントは、日本企業により実施された。対スリランカODAは、本邦技術を活用したインフラ案件が多い。ミャンマーでは,ダウェー市北約30kmにある沿岸部を経済特区とし、港、工業団地、タイ国境に至る道路等を建設する計画があり、JICAがマスタープラン策定に向け調査中である。ホーチミン、プノンペン、バンコクをチェンナイに繋ぐ「メコン・インド経済回廊」の最大のミッシング・リンクである。この計画については、日本、タイ、ミャンマーの三ヵ国による事務レベルの協議を累次に実施しており,2015年、今後の協力に関する意図表明覚書を三ヵ国で署名済である。バングラデシュでは、経済インフラ整備として、マタバリで円借款による石炭火力発電計画がある。また、連結性向上のため、ダッカ都市交通整備計画等もある。イランでは、チャーバハールにおいて港,FTZ,鉄道,空港等の開発計画がある。チャーバハールはホルムズ海峡外に位置しながら、中央アジア、アフガニスタンに繋がる可能性を有し、地政学的に重要である。ケニアでは、2016年、日ケニア首脳会談で、両国で日本のマスタープランに基づいて段階的にモンバサのSEZを開発していくことで一致した。

(3)ODAの戦略的活用:平和と安定のための貢献

我が国はエネルギー、食糧を輸入に依存している海洋国家である。しかし、ソマリア、アデン湾等で海賊が横行しており、海洋の安全の確保が必要とされている。その為、ASEANのシーレーン沿岸国に対し、ODAによる海上安全分野での支援をハード・ソフト両面で実施している。具体的には、巡視艇等の供与、海上安保のための人材育成、海上保安関連機材等の供与である。ベトナムには、中古船舶を供与し、海上保安関連機材供与の手続も実施中であり、今年1月の日越首脳会談にて、新造巡視船6隻の供与決定を伝達した。フィリピンに対しては、これまでに3隻の巡視艇を供与(2013年度署名円借款を活用)しており、通信システム等の関連機材も供与した。また、専門家派遣もしており、2016年10月の日比首脳会談にて、大型巡視船2隻の供与について合意した。テロ対策に関してだが、これまでアジアでは一部の国に存在するイスラム過激派がテロ対策の対象の中心とされてきた。しかし、ダッカ襲撃テロ事件のような「ホームグロウン・テロリスト」の存在等が指摘されるようになってきて状況が変わった。我が国は、アジアを「テロに屈しない」強靭な地域としていくための先導的役割を果していく。安倍首相は、2016年のASEAN首脳会談において、アジア地域に対し、テロ対策強化等として,今後3年間で450億円規模で実施すると共に、今後3年間で2,000人のテロ対策人材を育成することを表明した。途上国のテロ対策能力を高め、それらの国々から日本へテロリストが入国して来ないようにする。そのためにODAを使う。また、難民支援対策に関してだが、2016年に国連サミット及びオバマ米大統領(当時)主催難民サミットにおいて、支援策実施を表明した。すなわち、2016年から18年の3年間で総額28億ドル(約2,800億円)規模の支援を実施するとともに新たに立ち上げられた世銀のグローバル危機対応プラットフォームのグローバル譲許的資金ファシリティに対し、総額1億ドル(約100億円)規模の協力を行うとした。また、人材育成支援を約100万人に実施し、J-TRaCとUNHCRが連携する難民キャンプでの人材育成支援を実施する。そして、5年間で最大150名のシリア人留学生を受け入れることに加え,我が国制度の枠組みの中で,その家族呼び寄せに対応することとした。難民数は、第二次世界大戦後最悪となっている。我が国は人道支援と開発協力の連携を目指す。

(文責、在事務局)