第129回外交円卓懇談会
「Brexit後のEU:その展望と課題」
2016年11月16日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
日本国際フォーラム等3団体の共催する第128回外交円卓懇談会は、カレル・ラノー(Karel LANNOO)欧州政策研究所(CEPS)理事長を講師に迎え、「Brexit後のEU:その展望と課題」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2016年11月16日(水)15時より16時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「Brexit後のEU:その展望と課題」
4.報告者:カレル・ラノーCEPS理事長
5.出席者:15名
6.講師講話概要
カレル・ラノー欧州政策研究所(CEPS)理事長の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
(1)Brexitにおける英国の現状
さる6月23日の国民投票による英国の欧州連合(EU)からの離脱の決定を受け、世界各国の報道では、EUが崩壊するかのように述べられているがが、これは少し過剰である。英国はもちろんEUにおいて主要国であるが、経済的にはEU全体のGDPの16%を占めているにすぎない。また英国は、EU域内の移動の自由を保障している「シェンゲン協定」に加盟していないなど、特例が認められた存在であったため、離脱することでかえってEU内の制度が正常化する良い機会になるかもしれない。
英国は、現時点でリスボン条約第50条に基づく離脱の通告を行っておらず、今後英国およびEUがどのようになるのかという判断をするのは時期尚早である。さる11月3日にロンドンの高等法院が、英国のEU離脱の通告には議会の承認が必要との判決を出し、この判決に対して英国政府が最高裁に上訴することを表明した。このようにEU離脱をめぐっては、英国内で今しばらく手続きに時間がかかるだろう。また、英国が離脱の通告を行ったとしても様々な手続きが必要であり、リスボン条約50条が定めるとおり、離脱通告から2年でEUを脱退できるかは不透明である。
(2)Brexitにおける各国およびEUの影響
次に、Brexitによる各国の状況について述べたい。まず日本は、世界に先駆けて銀行の拠点を英国から欧州の大陸に移しはじめるなど、迅速な対応をとることに成功した。英国の離脱には今しばらく時間がかかるが、時間がたつほど英国市場に悪影響を及ぼすことから、日本の対応は理に適ったものである。
他にEU加盟国のドイツ、フランス、イタリア、オランダでは、2017年に議会選挙などを控えており、Brexitがこれらの選挙にネガティブな影響を及ぼすのかどうか非常に注目されところである。しかし、現在EU全体としては失業率の悪化に歯止めがかけられつつあり、かつ経済も上昇し始めているので、英国に続いてEUを離脱するなどのネガティブな動きは、当面おさえられるのではないかとみられる。他のEUの国々も、ほとんどが安定的な政治体制を維持している。このように、実態のEUは報道されているほど危機的な状況ではない。
(3)今後のEUのあり方
今後EUは、この度のBrexitの機会をとらえて改革を進めるべきであろう。これまでEUは、加盟国が増えても旧来と同じ制度を維持し続けたために、制度的に様々な不備を抱えている。最たる問題は、EUの政策執行機関である欧州委員会である。欧州員会は合議制で会議を運営しているが、加盟国が28カ国となったことで委員会の人数も初期の12名から28名となり、政策の決定までに多くの労力や時間がかかるようになってしまっている。
他にEU全体として、加盟国市民のEUへの支持が低水準であること、移民の問題を未だ解決できていないこと、米国の関与が低下する傾向にある中で安全保障体制をどのように維持するのか、といった問題を抱えている。これらの問題に対しての取り組みが今後重要である。
(文責在事務局)