(1)「破綻国家」および「破綻しつつある国家」の現状

イラクやアフガニスタンなどの「破綻国家」あるいは「破綻しつつある国家」に対して、ブッシュ政権は、それらの国を民主主義国家に変えようとする方策をとった。というのも、それらの国が民主主義国家になることで、その抱える問題や国際社会への脅威を解消できると判断していたからであり、またその試みは、実現可能であるとも考えられていた。しかし、現状を見る限りその試みは失敗したといえる。そして、ブッシュ政権の後を継いだオバマ政権においては、それらの国家に対して何も打つ手がない状況にある。

こうした中で、改めて国家の発展過程を分析した3つの理論を振り返ってみたい。一つ目は、近代化論である。この理論では、人口増加と技術開発などによって経済が発展することで民主主義を好ましく思う中間層が拡大し、結果として近代的な産業国家が誕生するというものである。二つ目は、制度派組織論である。この理論では、市民の経済的な発展の要求が中央集権型の政府を必要とし、結果として強固な国家が構築されていくというものである。三つ目は、合理的選択理論である。この理論では、市民が自己の利益を最大化するために合理的な選択をするというものであり、結果として安定した政権による国家建設がなされていくというものである。米国をはじめ先進民主主義国家は、これらの理論に基づいて、イラクやアフガニスタンが、経済発展によって民主主義が根付き、合理的な判断によってある程度米国と同じような安定的な民主主義政権が構築され、国際社会の脅威を減少させるものと期待していた。しかしながら、イラクやアフガニスタンでは、その期待のとおりとはならなかったのである。

(2)今後の「破綻国家」および「破綻しつつある国家」への対応

それでは、今後「破綻国家」および「破綻しつつある国家」に対して、どのような対応をとっていくべきであろうか。前述のとおりイラクでは、サダム・フセインの独裁政権を打倒しても、民主的な政権による安定した国家が築かれることはなかった。独裁政権打倒後、イラクの政治を担うエリート達が望んだのは、市民の権利を拡大させることではなく、自分たちエリート層の権力が維持される安定した政権をつくることであり、市民をコントロールできる能力を維持することであった。このことから、今後こうした「破綻国家」および「破綻しつつある国家」に対しては、必ずしも民間企業の発展や自由選挙など、民主主義の前提となる諸状況をつくりだすことを端的に求めるべきではなく、まずは安定したガバナンスを維持させるということが必要であろう。そのかたわら、経済の発展や市民の生活環境の改善など、既存の政権の運営とは対立せずかつ市民の利益になる事案を強化させ、少しづつその国の社会を好転させていくことが必要であろう。米国などの先進民主主義国家においては、「破綻国家」および「破綻しつつある国家」が大きな脅威であり、まずはその脅威を削減する政策をとっていくことが現時点では妥当である。ただし、その状況を良しとするのではなく、「破綻国家」および「破綻しつつある国家」に対するより良い対応策の模索も継続していくべきであることはいうまでもない。