(1)韓国と北朝鮮の対立の複雑化

近年の朝鮮半島の安全保障情勢は、韓国と北朝鮮の間にこれまで蓄積してきた問題が相互に絡み合い、さながら「ルービックキューブ」のような複雑な構造を持つに至っている。そもそも、1950年に朝鮮戦争が勃発した時点では、南北朝鮮の対立は、朝鮮民族同士の内戦ないしは冷戦下における米ソの代理戦争の性格を超えるものではなかった。しかし、1953年の休戦協定締結以降は、韓国と北朝鮮の対立は、軍事的対立に加え、どちらが朝鮮半島を統治すべき正統的国家か、との問題をめぐる政治的対立の色彩を強めていった。さらに冷戦終結後には、北朝鮮が核保有国としての地位確立を目指し始め、度重なる核実験とミサイル発射実験を通じて、韓国のみならず周辺諸国の脅威となって今日に至っている。このように、現在の朝鮮半島では、南北が幾重にも重なる諸問題をめぐって対立しており、今後も、両国の対立はその構造の中で展開していくものと思われる。

(2)朝鮮半島の未来を論じるための3つの視点

このように複雑さを増す朝鮮半島の安全保障情勢を論じる際、次の3つの視点が重要である。第1は、半島レベルの視点、すなわち「南北のパワー・バランス」である。冷戦以降、南北のパワー・バランスは、両国が共存と統一のどちらに力点を置くかによって左右されてきた。例えば1990年代半ばの大飢饉で北朝鮮経済が疲弊すると、韓国では統一を推す声が聞かれたものの、1997年のアジア通貨危機で韓国経済が大打撃を受けると、韓国は一転「太陽政策」で北朝鮮との共存を追求した。そして昨今は、北朝鮮の政情不安定を受けて、韓国は、現状を統一への好機と捉えている。第2は、地域レベルの視点、すなわち「米国と中国の半島への関与」である。地域の2大強国である米中がそれぞれ半島にどのように関わるかは、韓国と北朝鮮の二国関係に大きく影響する。なぜなら、韓国は、経済面では中国に依存しつつ、安全保障面では米国に依存するという「アジア・パラドックス」の中で外交を展開することを余儀なくされており、北朝鮮は、(半島でのプレゼンスを高めたい)米国と(それを牽制したい)中国の相互不信という、いわば米中間のパワーの「隙間」で存続しているからである。

第3は、第2の視点と関連するが、グローバル・レベルの視点、すなわち「米中のパワー・バランス」である。米中のパワー・バランス如何で、韓国と北朝鮮は(イ)中国に順応するか、(ロ)米中両国にヘッジを行うか、(ハ)米中両国から一定の距離を保つか、(ニ)米中を巻き込んで北東アジア地域の多国間安全保障協力を推進するか、あるいは(ホ)米中間でバランサーの役割を果たすか、という5つの戦略のいずれかを選択しなければならない。

(3)北東アジア安定のために朝鮮半島において必要なこと

これら3つの視点から言えることは、韓国が北朝鮮の脅威と中国の台頭にどのように向き合うかが、朝鮮半島、さらには北東アジア地域全体の安全保障の今後に大きな意味を持つということである。この文脈からは、日本と米国は、韓国と3カ国での安全保障協力を推し進めるべきであるといえる。中国の台頭に応じるための日米韓の協力は、韓国の対中政策が依然はっきりしていないため、速やかに実現することは難しいかもしれないが、北朝鮮の脅威への対応は、3カ国協力の足掛かりとなろう。そのための下地は、米国がリバランス政策を継続し、日本がいわゆる従軍慰安婦問題の解決について韓国と合意に至った今、既にできあがっているといえる。いずれにせよ、韓国が北朝鮮と中国を前に、半島・地域・グローバル全てのレベルで一貫した対外方針を持てるかどうか、そして日米がその韓国を後押しすることが、朝鮮半島情勢という「ルービックキューブ」を解く鍵である。

(文責在事務局)