(1)AIIB設立の背景にみる中国

ADBは、ベトナム戦争さなかの1966年に、共産主義勢力に対抗するかたちで、アジアの資本主義諸国の開発促進を図るべく、当時のリンドン・ジョンソン米大統領の後押しを受けて、米国主導のもとで設立された。このように冷戦期にアジアにおける西側の国際金融機関としてスタートしたADBであるが、冷戦終焉後は、体制を問わず、広くアジア各国の経済発展のための貴重な融資元として定着し、現在に至っている。ADBにおいては、設立以来現在に至るまで、日本と米国が最大の出資国であるところ、中国がそれに続く出資比率を持っている。その中国が、一時期、ADBにおける自国の議決権をさらに強めるべく、その出資比率の増加を図ったことがあったが、この目論見は日米の強固な反対により頓挫した。これは日米両国として、ADB最大の借入国の一つである中国が、議決権を強めることを承諾出来なかったためである。そして、この一連の経緯が、中国主導によるAIIB設立の動機として強く働いているとみられる。2013年に中国が初めてAIIB構想を提唱した際、米国は、この構想を支持する国があるとは考えず、さしたる対応を施さなかったが、その後、アジアのみならず欧州の複数の国が次々と同構想に賛同し始めると、米国は一種のパニック状態に陥り、同構想をなんとか潰そうとの動きを見せ始めた。しかし時すでに遅く、設立段階において、英国、ドイツ、フランスなどの欧州諸国を含む57カ国がAIIBに加盟することとなった。

(2)ADBとAIIB:対立か協調か

このような背景のもとで設立されたAIIBは、今後、ADBとどのような関係に立つのであろうか。米国や日本は、AIIBに対して終始慎重な姿勢を保っているが、その理由は、AIIBがセーフガードの確保やガバナンスの透明性といった諸点での問題をはらんでいるからである。まずセーフガード、すなわち、AIIB融資による事業が、十分な環境調査や補償措置を伴って実施されるのかといった点について、AIIBは、ADBに比べて相当低い基準を設定しているとみられる。事実、AIIBは、ブラジルやロシアといった、およそセーフガードを徹底するのが困難であると思われる国にも広く門戸を開放している。次にガバナンスについては、AIIBでは、本部が北京に置かれ、中国の議決権が圧倒的に強いことから、その運営上、中国の意向が不当に強く反映されかねないという懸念がある。また、AIIBの5つの副総裁ポストのうち2つは、域外国(英国およびドイツ)が占めており、AIIBがアジア諸国の開発促進そのものよりも国際政治上のプレゼンス向上を主眼に置いているようにも見られる。しかしながら、そのような懸念材料にもかかわらず、AIIBは今後アジアを中心にさらに高まるインフラ需要に応じる存在として期待されていることも事実であり、その加盟国は今後ますます増加し、将来的には80ヶ国までになると予想されている。そのような中、ADBとAIIBを、相互に対立する存在ではなく、互いに協調しうる存在として機能させていこうとする機運も芽生えつつある。すでにADBとAIIBとの間での協調融資も決定している。ふりかえれば、そもそもADBについても、その設立当初は、世界銀行やIMFなどの既存の国際金融機関を脅かすものとして警戒されていたこともあったが、結果的には、それらの機関とみごとに協調しつつ世界経済を支えるに至っている。この前例からしても、AIIBが今後ADBなどと協調しつつ世界経済に貢献するようになるとのシナリオはあながち不可能ではない。

(3)AIIBの今後と、日米がなすべきこと

このように考えれば、今後は、日米両国としても、ただ外部からAIIBに反対するのではなく、AIIBに加盟して内部からより大きな影響力を行使するほうが得策であるといえる。事実、金立群AIIB総裁も、日本がAIIBの第2、米国が第3のシェアホルダーとなることを非公式ながら提案している。現在のところ、米国内においては、AIIB加盟を前向きに検討する雰囲気は見られないが、次期政権下において、AIIB加盟が議論・可決される可能性は否定できない。いずれにせよ、AIIBの今後のあり方に対し、のぞましい影響力を行使するためにも、日米両国が対AIIB政策について互いに歩調を合わせていくことが何より肝要であるといえよう。

(文責在事務局)