(1)「経済安全保障」概念の発展

明治維新後の日本は、当時の世界的な潮流である「地政学」および「地政経済学」の考え方に基づき、朝鮮半島や中国に進出し、ロシアや欧米の列強と軍事力による競争を行うことで安全保障を確保しようとした。しかし敗戦により、武力行使を制限する平和憲法が制定され、さらに日米安保体制が確立したことから、日本は経済発展に集中するようになり、そこで大きな利益を得るようになった。そうした中で、日本に利益をもたらす経済貿易環境を非軍事力によって維持することが重要な外交課題となり、そこで重視されるようになったのが「経済安全保障」の概念である。  「経済安全保障」の概念で重視される内容は時代とともに変化しているが、ポスト冷戦期の現在においては、国力として軍事力よりも経済力が重視されるようになっているため、国際貿易の障害を低くして、国家の経済貿易体制を強化し、国家の競争力を引き上げることが主な焦点となっている。

(2)日本の「経済安全保障」政策の変遷

こうした「経済安全保障」概念に基づく戦後の日本の安全保障政策は、3つの時期を経て今日に至っている。第1の時期は、政府開発援助(ODA)を活用することで安全保障を築こうとした戦後から石油危機が起こる頃までの時期で、これを「政府開発援助期」と呼ぶことにする。この時期の日本は、共産主義勢力と対峙するために、東南アジア、韓国、台湾に対してODAを積極的に行い、それらの国との経済関係を強め、また経済発展を促進させた。そして日本を先頭に、東アジア諸国と東南アジア諸国が続く雁行形態型の経済発展モデルを形成したのである。第2の時期は、石油危機以降に資源を安定的に確保しようと奔走した時期で、これを「石油危機期」と呼ぶことにする。この時期の日本は、石油確保のために、これまで90%を振り分けていたアジアへのODA比率を70%に引き下げ、代わりに中東、アフリカ、中南米に各10%ずつ振り分けるなどした。また、自由貿易体制の強化、南北問題への対処などにより、国家間の経済的相互依存を維持しようと努めた。最後に第3の時期は、国家間関係を強化する主要な手段として、地域の経済統合が重要となっている現在の時期であり、これを「地域経済統合期」と呼ぶことにする。現在の日本は、EPA及びFTAを二国間、多国間で進展させ、経済関係による所謂同盟国を増やすことで、自国の安全保障を確保しようとしているのである。  以上述べてきたような「経済安全保障」概念に基づいた日本の安全保障政策は、あくまでも日米安保体制によって軍事的な安全保障が確保されているために行うことができる政策ある。つまり、日本の安全保障は、日米安保体制を「盾」、経済政策を「矛」にして成り立っているといえよう。その「矛」である経済政策によって、日本は自国の経済力を強化し、他国との関係を強化し、そして自由貿易体制下における国際社会での影響力を高めるとともに、国民の福祉なども引き上げてきたのである。

(3)日本の「経済安全保障」と台湾

戦前・戦中、日本は当時打ち出していた「大東亜金融圏」の中心に台湾を据えていたが、その頃から現在に至るまで、日台関係の中心は経済である。そうした中で、特に今日の日台の経済関係においては、次の5つの側面が重要である。1点目は、安定的な資源の供給と利用ということである。具体的には、日本にとって東シナ海、南シナ海の海底資源は極めて重要であるが、それらの帰属をめぐって中国、台湾との間に対立があり、今後如何に協力して開発につなげていくことができるかということである。2点目は、貿易拠点とネットワークの安全性ということである。台湾の周辺海域は主要な海上交通路であり、日本にとって台湾は資源供給および経済発展の生命線であり、その観点からの協力が必要である。3点目は、国際経済競争力の強化ということである。日本にとって主要な経済関係は、日米関係、日中関係、日韓関係であり、その次にくるのが日台関係であろう。日米関係は多くの分野における共通利益で成り立っているが、経済は競争関係にある。日中関係は政治面で競争しているが経済は協力関係にある。日韓関係は政治的にも経済的にも協力より競争が勝っている。しかし、日台関係はあらゆる部分で競争より協力が勝っている。つまり日台関係の強化が日本の国際経済競争力の強化に欠かせないということである。4点目は地域経済統合への参加ということである。日本にとって、上記で述べたとおり重要な経済関係にある台湾を、TPPなどの経済統合枠組みに取り込むことは、アジア太平洋における影響力を増大させることにおいて極めて重要である。最後に5点目は、国際社会の自由貿易秩序の保護ということである。日本と台湾はともに現在の自由貿易秩序によって利益を受け、さらに安全保障を確保していることから、今後も日台がそれらの維持のために協力していくことが極めて重要である。

(文責在事務局)