(1)中日関係史学会について

武寅・中国社会科学院副院長を現会長(第4代)とする中日関係史学会は、1984年に、趙樸初という中国仏教界最大の実力者と王震・国家副主席(当時)のイニシアチブにより、日中両国の友好の確固たる基盤を築くことを目的に設立された。この当時は、胡耀邦総書記(当時)の招きにより日本人青年3,000人の訪中が実現するなど、日中関係が急速に深まりつつある時代であった。その後、今日までの30年間、同学会は、毎年1~2回の頻度で日本のさまざまなシンクタンクとの間で国際シンポジウムを開催するなど、日中間の知的交流を図ってきている。現在は、日中関係学会(現会長:宮本雄二・元駐中国大使)が日本側のカウンターパートとなっている。

(2)近年の日中関係が辿った3つの段階

自分は2003年から2014年まで、在京の中国大使館に参事官として勤務しており、日中関係の動向を外交の現場でつぶさに観察できる立場にあった。21世紀に入ってからの日中関係の展開を振り返ると、およそ3つの段階に分けられるといえる。第1の段階は、2001年からの5年間である。日本では小泉政権の時期とほぼ重なるが、この時期は小泉首相の靖国神社参拝でいわゆる歴史認識問題や教科書問題に火が付くなどして、両国関係は「政冷経熱」の関係に陥り、日中両国首脳の交流は完全に途絶えた。第2の段階は、2006年からの5年間である。日本では第一次安倍政権以降次々と政権交代が続いた時期であったが、この時期は歴史認識問題に加え、領土問題が表面化するなどさまざまな懸案を抱えながらも、2006年に安倍首相の訪中、2007年に温家宝首相の訪日などが実現し、いわゆる「戦略的互恵関係」の重要性が両国首脳により確認され、それを機に、日中関係は「雪解け」の方向へと向かった。第3の段階は、2010年からの5年間である。日本では民主党が政権から退き第二次安倍政権が成立した時期であったが、この時期は島での漁船衝突事件がきっかけとなり、日中関係は再び悪化し、政治、経済、民間交流など、両国間のあらゆる側面での交流が冷却化した。

(3)今後の日中関係の展望

現在の日中関係は、上で述べた3つの段階に続く第4の段階に入ったといえる。とくに、2014年末に、APECのフリンジで実現した日中首脳会談において発表されたいわゆる「4つの共通認識」の下で、日中関係は穏やかさを取り戻している。他方、現在の日中関係には、従来からの歴史認識問題や領土問題に加え、台湾問題も加わり、これらの問題が複雑に重なりあう状況にある。今後の日中関係の展望を考える上でも、まずはその現状認識がすべての前提となるだろう。とくに本年1月のいわゆる台湾総統選挙において、「台湾独立」を党是とする民主進歩党の蔡英文氏がトップに就任したことで、両岸関係にはあらたな緊張が走りかねない。安倍首相や岸田外相など日本の政権筋は、今回の選挙の結果を歓迎したとされているが、いずれにせよ、日本が今後の両岸関係とのからみで、いかなる役割を演じるか、という問題は、今後の日中関係の展開にも関係してくることは否定できない。

(文責在事務局)