第118回外交円卓懇談会
「ロシア、中国、米国及び地政学的リスクの再発」
2015年11月13日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
日本国際フォーラム等3団体の共催する第118回外交円卓懇談会は、トマ・ゴマール仏国際関係研究所(IFRI)所長を講師に迎え、「ロシア、中国、米国及び地政学的リスクの再発」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2015年11月13日(金)15時00分より16時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「ロシア、中国、米国及び地政学的リスクの再発」
4.報告者:トマ・ゴマール仏国際関係研究所(IFRI)所長
5.出席者:21名
6.講師講話概要
トマ・ゴマール仏国際関係研究所(IFRI)所長の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
(1)国際政治を左右する米中ロ三国関係の成立
今日の国際社会は、ロシア、中国、米国の三国間におけるバランス・オブ・パワーの目まぐるしい変化に直面している。それによって、世界各地で地域秩序の変動が生じ、地政学的リスクが高まりつつある。その背景には、ウクライナ危機などの国際紛争に加え、サイバー・セキュリティー、エネルギー安全保障等の諸要素が複雑に絡み合っている。これら三国の関係に注目することの重要性は、三国とも共通して、軍事に十分な予算を充当でき、かつ国連安保理の常任理事国であるが故に、世界でもこれら3国だけが世界政治に関する「グランド・ストラテジー」を持てるということにある。とくに中国は、日本で「ニクソン・ショック」と呼ばれる1971年のニクソン大統領の訪中および対中国交正常化をきっかけに、グローバル化と大国化への道を開かれ、その44年後の今日、米ロとともに世界政治の無視できない一翼を担うに至った。
(2)米中ロ各国の思惑
まず中国について、この国は短期的には2020年までの習近平政権の存続、長期的には2049年の中華人民共和国建国100周年という、2つのタイムラインを意識している。中国が展開する「一帯一路」構想は、わずか2~3年前に打ち出されたわけであるが、今や地球上の多くの国や人々がその影響を受け、対応を迫られており、その意味において中国の外交戦略はかなり成功したといえる。さらに中国は、大陸国家から海洋国家への転身を図っており、中国の周辺海域を「中国の内海」たらしめんとしている。同時に中国は、海洋政策のみならず、「石炭から天然ガスへのエネルギー転換」「エネルギー供給源の多様化」といったエネルギー安全保障上の戦略も着実に展開している。次にロシアについて、この国は伝統的に大国意識を持ってきたが、特に2000年代からのプーチン体制下では、国際的威信の追求、軍事力の再建、そのためのエネルギー問題の解決という3つの国家的目標を掲げ、あらゆる資源がそこに投入されてきた。しかし経済面では、昨今の原油価格の低迷のあおりを直に受けている上に、クリミア併合とウクライナ危機以降は欧米諸国からの経済制裁下にあり、対ロ投資も低迷している。ロシアの国際威信はこの経済制裁で大きく傷ついている。他方、ロシアはBRICSの一員として、関係諸国との関係維持を図り国際的孤立を回避しようと画策している。次に米国について、この国は今後もグローバル・リーダーの地位を維持したいと考えており、とくに軍事、エネルギー、サイバーの3つの分野における優位性を維持したいと考えている。また現在、オバマ政権は、環太平洋パートナーシップ(TPP)や環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)をてこに、BRICSに対する地政学的・経済的バランスを維持しようとしている。
(3)米中ロ三国間のシーソーゲーム
ウクライナ危機後、国際的孤立を回避したいロシアにとって、中国の戦略的重要性が高まっている。ロシアと中国は、国家主権が対外的野心と直結している点、「国家の発展は国家資本主義(state capitalism)に基づくべき」とのイデオロギーを持つ点で共通している。また、2012年には中国はロシアの最大の貿易相手国となった。現在ロシアは、中国による南シナ海・東シナ海における行動についての態度を保留しており、中国の海洋強国たらんという野心を助長している。それに対して中国にとっては、ロシアの戦略的重要性はさほど高まっているとはいえず、そこに非対称性が見て取れる。いずれにせよ、今後の中ロ関係は、米国が中ロそれぞれとどのような距離感をとるかによって大きく左右される。現在のところ、米国との関係強化に執着するロシアとは対照的に、米国にとってのロシアの戦略的重要性は低下している。ソ連崩壊後の米ロ交渉の主題は大きく、核戦略交渉、核拡散問題、ポスト・ソ連国家の管理、欧州の安全保障、イスラム問題、人権問題の6点に絞られるが、両国は戦略的パートナーシップの構築にことごとく失敗している。現在の米国のアジア戦略においても、ロシアの存在は完全に等閑視されている。現在、米国の戦略的関心は中国にある。それは、対中強硬姿勢を維持すべきか、対中融和的姿勢をもって中国近海の安定を図るべきかが、次期大統領選挙の最大の争点の一つとなっていることからも見て取れる。他方、中国は、その海洋政策をもって周辺海域から米国の影響を排除することを目指している。また「一帯一路」構想自体、米国のリバランス政策に対する地政学的反応との側面をもっている。米中両国は、世界的なエネルギー安全保障については協力の可能性が見出だせるが、サイバー・セキュリティーの分野では今後さらに競合することが予想される。このように米中ロの三国は、それぞれの戦略的思惑がからんだ複雑な「三角関係」を構成しており、それが地球規模の地政学的リスクをもたらしているといえる。この「三角関係」の分析は、日本と欧州にとって、そのような地政学的リスクに対応する上で極めて重要である。
(文責在事務局)