(1)「一帯一路」戦略の内容と背景

「一帯一路」戦略は、東アジアとヨーロッパの経済圏を連結することを目的に提唱された。中国とユーラシア各地を結ぶ6つのルートからなる「陸上新シルクロード」と、南シナ海からインド洋、アフリカ沿岸、地中海の港を結ぶ「海上シルクロード」からなり、5つの分野(政策、インフラ、投資・貿易、民間交流、金融)における交流・協力の推進を目指している。この戦略が提唱された背景には、(イ)米国の「リバランス政策」による安全保障と経済の両面での中国への圧力、(ロ)もっぱらドル本位制に依存するリスクとコスト、(ハ)国内経済と世界経済の成長が共に減速している「新常態」、(ニ)その他国内の政治、経済、安全保障上の各種の課題(国内の行き過ぎた民族主義および分裂主義、テロ、地政学的戦略における陸と海のバランス、輸入に頼るエネルギー安保上の脆弱性など)、(ホ)周辺諸国の安定と調和の需要、そして(ヘ)中国企業の増加する海外投資における利益の保護などの複合的な理由があった。

(2)「一帯一路」戦略とアジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係

この「一帯一路」戦略に密接に関連しているのが、AIIBである。すでに57カ国が設立メンバーとして「AIIB協定」に署名しており、本年末までに運営を開始することを目指している。AIIB運営における投票権は、(イ)基本投票権、(ロ)出資額に基づく株式投票権、(ハ)設立メンバー投票権の3つからなっている。中国は、1000億ドルの法定資金のうち約30パーセントを出資しており、その投票権は上記3つをあわせて全体の約26パーセントを占めている。すなわち、現状では、中国だけが否決権を持っていることになるが、これは参加諸国によって決められたルールに基づいて得られたものであり、中国が根回しした結果ではない。今後AIIBへの参加国が増えれば、中国の投票権の割合は薄まっていくであろう。

(3)「一帯一路」戦略の本質と今後の課題

「『一帯一路』戦略は、中国の過剰な生産能力の輸出だ」といった批判は誤解である。「一帯一路」戦略の本質は、中国の「陸権国家」から「陸海権複合型国家」への戦略の転換、中国が直面している国内外諸問題への戦略的対応、そして中国が平和的台頭を追求する中での戦略の再構築にある。そしてその目標は、中国の持続的長期成長を支える国際システムの構築にある。さらに、「一帯一路」戦略には、中国が「陸海権複合型国家」として、グローバルな志向を欠く「断層国家」を融合させ、世界の平和と秩序に資するという意義がある。他方、中国がそのような国際システムを構築するためには、依然、さまざまな課題がある。まず、人民元の国際通貨化、成熟した国内金融市場や全世界的な市場の提供、他国と共通の価値観に基づく発展、周辺地域の安全と秩序を確保するための軍事力の構築などが重要である。「一帯一路」戦略は中国国内経済発展の新たな原動力となるが、現在の中国国内の政治・経済・社会システムの改革なくしてその実現は難しく、時間がかかり、チャレンジもたくさんある。

(文責在事務局)