日韓関係はなぜ悪化しているのか

日韓両国の市民の間においては、両国関係が悪いという認識が成立しているようだが、ただしその理由としては、日本では朴槿恵大統領、韓国では安倍首相がその原因だとみられている。しかし、日韓関係の悪化は、そのような指導者個人の資質による単純なものではなく、両国関係が主に3つの構造的変革期に入っていることによる。第一に、韓国で新しいパラダイムによる相手国への対応が強く要求されている。具体的には、慰安婦および徴用工の補償について、日本国内では解決済みでもはやそれについての要求を受けることができないとの判断があるが、韓国国内では政府が65年体制の維持を基本としているものの、司法の判断でそういうことがおきており、これは社会から要求が出ていることの顕れでもある。韓国においては市民団体の影響が強くなり、外交当局が国内政治をコントロールできていない。これは日本のおいても同様だと思う。第二に、両国関係が垂直から水平、つまり競争の関係になった。まだまだ日本の経済が強いとはいえ、今や韓国経済も拡大し、国際社会における発言力も向上してきた。今までは日本が余裕をもって対応していたが、今や両国とも譲る気持ちがなくなっている。第三に、対中政策が異なる。韓国は北朝鮮のことを考えなければならず、また対中輸出が対日・対米輸出合計より大きくなった。しかし、日本はむしろ中国との対立が拡大している。
以上3点のため、安倍政権でなくなったとしても日韓関係は改善しない。両国関係を調整するシステムづくりが必要である。

日韓における論争

中国への対応については、日本では、韓国が中国に傾斜しているとの意見が述べられている。実際に、韓国国内の世論において、かつては韓米同盟を中国との関係より重視していたが、今では若者を中心に、経済的な繋がりから中国を重視する傾向がみられるようになっている。しかし、中国から韓国への様々な要求が高まるようになっており、例えば米国主導の高高度ミサイル防衛体系(THAAD)の韓国配備構想に関して、韓国では米国と交渉せず、議論せず、意思決定せず、の曖昧・様子見の方針をとっているが、中国からははっきりと拒否すべきと、韓国の態度に不満をみせ始めている。中国は、北朝鮮と韓国をバッファゾーンにしようとしており、韓国の安全保障を担ってくれるわけではない。韓国では次第に対中警戒感が出ている。
そのような状況の中で、日韓の問題は、政府間の信頼関係がなく、市民間の感情レベルでも嫌悪が広がり、両国関係の重要性が明確でなくなっていることである。政府間においては、首脳同士のパイプ役になる人材や機能が不足しており、信頼構築が難しくなっている。市民間においては、実は韓国の世論調査では、日本人に対して80%が好感をもっているが、日本の歴史への態度に対しては80%が嫌悪感を示している。韓国では、そうした雰囲気の中で特に強硬なNGO団体などの主導により、日本に対して戦時補償を求めるよう政府に要求し、政府もそれを押さえられなくなっている。日本からは、そうした韓国の態度に対して、今や韓国人自身に対する嫌悪感が広がっている。日本では、日中関係が改善すれば、韓国は孤立してついて来るとの考えが出てきている。しかし、日中韓3カ国の関係はゼロ・サム・ゲームではない。韓国にとっても中国との関係強化ばかりでは、国際社会の中で現在の立場を維持できるわけではない。そのため、両国は改めて両国関係の重要性を認識し、関係改善を図るべきであるが、現状では、それぞれに相手側にボールがあるとして動きだせなくなっている。これには、両国の選挙など政治日程のタイミングがずれていることも絡み、より困難にさせている。

日韓関係の改善に向けて

 それでは、日韓関係は改善できないのかというと、そんなことはない。次の点を実施することで、日韓関係は改善できる。韓国側としては、日本に、慰安婦に在韓国日本大使が面会して謝罪を行う、その後に首相がなんらかの形で謝罪を表明する、そして政府予算で慰安婦各個人への補償を行う、という3点を求める。日本側は、慰安婦の法的責任は絶対に認められないとの立場であるが、「第2のアジア女性基金」といったドイツが行った未来財団的なものをつくり、包括的な形で実施してはどうか。日本側は、韓国に対して、慰安婦像の撤去、‘Sex Slave’という言葉を使わないこと、慰安婦と歴史について日本を国際的に非難しないこと、を要求している。このうち、像の撤去はできるだろう。‘Sex Slave’は最初から日本が使用していたし世界中で使っているので実現できない。対日非難も韓国政府は今はやっておらず、市民が行っている。他に、日本側からは産経新聞前ソウル支局長の出国禁止、水産物の輸入規制及び仏像返還の問題の解決が要求されている。これらの日本側要求と韓国側の要求についてパッケージで解決すればよい。そのためのプロセスとしては、とりあえず日本から特使派遣をお願いしたい。以上申し述べた上で付言すれば、両首脳がコストの高い上記解決策を決断するか不明であるが、50周年という今年のタイミングを関係改善に活用することが極めて重要である。

(文責在事務局)