ウクライナの内外情勢

5月に大統領選挙を終えたウクライナでは10月に議会選挙を控えており、また東部でのロシアとの戦争は停戦合意は成立したものの状況は引き続き悪化している。国際社会は侵略国ロシアとウクライナを支持する(西側)文明諸国にわかれているが、右文明諸国も次に何をすべきか模索している状況で先行きは不透明である。
ロシアを理解するためにその行動を振り返れば、例えば1994年に英国が主催した非公式な外務省政務局長会議において英国側が帝国の終焉について英仏の例を挙げて説いたのに対し、ロシア代表はソ連が帝国であったことを直ちに否定した。当時のロシアの大統領は民主主義的なエリツィン大統領であったにもかかわらずである。そこに自分はロシアの本心・欲望を垣間見た。
現に2000年代に入ると、プーチン大統領が「(20世紀)最大の地政学的悲劇はソ連の崩壊である」と公言するにいたった。こうして2008年にグルジア戦争が勃発したが、当時英国駐在中だった自分に英国側から「ウクライナは助けが必要か」と聞いてきた。自分は「今は不要だが、後日助けが必要になるかもしれない」と答えていた。同年NATOによるウクライナとグルジアの事実上のNATO加盟承認は、ロシアを激昂させた。
その後、2013年11月のEUとの連合協定署名をめぐるウクライナ大統領(当時)の豹変をきっかけとして、ウクライナでは革命とも呼ぶべき騒擾が起き、そしてクリミアではロシアによる併合が始まった。本年、ウクライナの独立記念日である8月24日がすぎてから、親露派が劣勢に立たされているのに怒ったプーチン大統領はロシア正規軍をウクライナ東部に送り込んでおり、その後合意された停戦は常に破られている。しかし我々は自国の領土の一体性、主権、そして選択の自由を守るため、全ての可能性を追求する。

グローバルな安全保障への課題

 現在ウクライナで起きていることは、恐らく第2次世界大戦以後最大の国際安全保障システムへの挑戦である。国連安全保障理事会・常任理事国の一員が、その前身であるソ連が他の戦勝国とともに作り上げた全てのルール・オブ・ザ・ゲームを無視し、ウクライナの領土を奪取した。ウクライナは本年3月以来、幾度となく国連安保理、NATOなど、国際社会のあらゆる場に状況を訴えてきた。しかし国連安保理の有効性はゼロであり、またヨーロッパのNATO加盟国にはこの種の挑戦に対する用意が事実上ないことが明らかとなった。それは、NATO諸国の予算が過去数年間減少しつづけたこと、および昨今のNATOは地球規模の新たな安全保障上の脅威に対する戦略を協議する場となっていたからである。ところが、今ウクライナで世界が直面しているのは旧来型の19世紀―20世紀的な安全保障への脅威である。ただひとつ違う点は、核兵器を保有するロシアがこの旧来型の安全保障上の挑戦をつきつけていることであり、そこから大きなクエスチョン・マークが生まれている。
このようなウクライナの内外情勢に唯一効果的に反応できたのはG7である。G7は憲章もない先進工業国の緩やかなクラブであるが、彼らは先進国であるがゆえ、そして真の問題を理解しているがゆえに事態に反応・対処できたのである。
さらに、価値観について指摘したい。国連安保理の5常任理事国・10非常任理事国が、価値観を共有していると言えるだろうか。国連加盟国が国連憲章を重視し、安保理がその遵守を監視するという建前を除けば、実際には何が起こっているのだろうか。現実には、安保理常任理事国の一員が、国連憲章を忘れて好き放題しているのである。
すなわちグローバルな安全保障において、せめて過去75年間のように大きな戦争がない世界を今後も維持し続けたいのであれば、新たなメカニズムを考えなければならない。安保理は時代遅れである。
また、核の抑止力についても考えなければならない。西側諸国が侵略者ロシアに対して何か躊躇しているのは核の抑止力に原因があるのではないか。その点に関して言えば、1994年、米国、ロシアに次ぐ核保有国であったウクライナはブダペスト覚書による米、英、ロシアの保証の下で核兵器を放棄したが、彼らは今や知らぬふりを決め込み、その結果ロシアの侵略が起きた。今日の危険極まりない世界情勢においては、学界、政界、さらにより幅広い国民も、予防できないまでもせめて迅速に対応できるような安全保障メカニズムについて考えるべきである。G7は、その責めを負っている。

(文責、在事務局)