新年に入り、安倍総理の「地球儀を俯瞰する外交」が益々活発化している。

安倍外交の理念は、筆者の理解では、次の特徴がある。第一に、安全保障と経済の両面から戦略的見地に立って世界を広く眺め渡して優先度を決める。第2に、「積極的平和主義」を標榜し、わが国の平和のみに安住するのではなく、世界の平和のために自衛隊の活用を含め貢献する。この点については、筆者が所属する(公財)日本国際フォーラムが2009年10月に打ち上げた「積極的平和主義と日米同盟のあり方」と題する政策提言と軌を一にする。第3に、基本的人権、民主主義、法の支配といった普遍的価値観を重視する。

安倍総理の就任以前から進んでいた中国や韓国の反日外交は、安倍内閣発足以来、節度を越えたものとなっていたが、12月の靖国参拝後には見境のないものとなった。安倍外交には、これに対抗する必要性も加わった。

筆者は、このコラムにおいても何度も、首脳外交の重要性を指摘してきた。安倍総理と周辺の補佐官たちは、これをよく理解しているようだ。衆参両院で多数を制している余裕であろうか、総理の外遊に文句をつけがちの国会も、安倍外交を阻止することは難しいようだ。

昨年は、約月1回の頻度で計13回、計25カ国、ほとんどの主要国を訪問した。

中韓訪問がないのは、首脳会談実現の前提として安倍総理の信念と日本外交の理念を曲げさせようとしているが、これに応じる必要はない。国際社会は相変わらず親日的である。わが国のこれまでの平和的な行き方、二国間や多国間の援助を通じた各国の国づくり、人づくり、何よりも日本人への高い評価は、中韓のキャンペーンで傷つくようなものではない。韓国内では、度を越した反日キャンペーンと北朝鮮の後ろ盾である中国への過度の傾斜への反省も芽生えてきたようだ。「用日」(日本を利用ないし活用する)なる造語も使われ始めた。

本年の幕開け早々には、安倍総理は、オマーンとアフリカ3カ国を訪問した。わが国首相のアフリカ訪問は、2001年の森喜朗総理、2006年の小泉純一郎総理に続いて3回目である。コートジボワールは西アフリカのフランス語圏の有力国である。モザンビークではすでに日本企業が沖合で有力ガス田の開発に取り掛かっており、さらに鉄道や港湾などのインフラ建設も計画されている。エチオピアは伝統的に日本と関係が深いが、アフリカ53カ国からなるアフリカ連合の所在地で、アフリカ全体に敬意を表する訪問となる。

アフリカは、国連加盟国53カ国を数える最大の地域勢力である。国連安保理改革もわが国の常任理事国入りも、アフリカの賛同と支持がなければ実現しない。現段階では大半の国々は貧しいが、資源は豊かであり、未来へのフロンティアだ。わが国は、1993年以来他国に先駆けてアフリカ重視を謳い、5年ごとに日本でアフリカ開発東京会議(TICAD)を開催、その間には閣僚会議をアフリカで開催してきた。

1月26日には、インドの共和国記念日の主賓として祝賀パレード観覧席の中心に座る。わが国の首脳としては、初めてだ。1月22~23日には、スイスのダボス会議に出席し、世界の首脳や経済界リーダーたちにアベノミクスを訴えるほか、「地球儀俯瞰外交」の真意を発信する。ソチでの冬季五輪に出席し、2月22日前後にはプーチン大統領と5回目の首脳会談を行う。

その後も、国会の合間を縫っての多くの外国訪問が企画されている。

他方、1月早々、トルコのエルドアン大統領を東京に迎えて首脳会談が行われた。例年、気候のよくなる3月から日本への各国首脳の訪問が増えるが、アベノミクスによって蘇った日本へは、各国の首脳が続々とやってくるであろう。4月にはオバマ大統領も訪日する。

安倍外交では、訪問先の国々が所属する地域機構内に差別感が生まれないよう、できるだけ構成国全部に対し配慮しているようだ。

コートジボワールでは、安倍総理のために西アフリカ経済共同体(ECOWAS)15カ国の首脳が集まって首脳会談が行われた。

オマーン訪問により、わが国総理として初めて、湾岸協力会議(GCC)を構成するサウジアラビアなど6カ国すべてを訪問した。

わが国外交の最重要地域であり親日国の集まりである東南アジア諸国連合(ASEAN)については、就任後の初の訪問先として3カ国を選んだが、その後の訪問も合わせ、タイ、インドネシアなど構成国10カ国すべてを1年以内に訪問した。これも安倍総理が初めてである。12月には、ASEAN首脳全員を東京に招待し、日ASEAN関係40周年記念行事を行った。

わが外交当局も、従来の静かな外交姿勢を転換した。中韓の攻勢に対し、諸外国への外交攻勢と国際社会への発信を強化している。

一例をあげる。

ロンドンでは1月2日付のデイリー・テレグラフ紙が、中国の劉暁明駐英大使による「中英両国は一緒に戦争に勝った」と題する寄稿を掲載した。劉大使は、「軍国主義が日本におけるヴォルデモート卿(注。ハリー・ポッターに出てくる悪役の魔法使い)だとすれば、靖国神社は、(ヴォルデモート卿が自らの魂を保管する)魔法の箱であり、日本の魂の最も暗い部分を代表するものだ」と指摘、「日本の軍国主義、侵略、植民地支配の過去に深刻な疑問を投げかける」と批判した。

これに対し、林景一駐英日本大使は6日付の同紙上で、「アジアのヴォルデモート卿になりかねない中国」と題した反論を寄稿した。尖閣諸島周辺で中国側が「挑発」行為を繰り返しているが、日本は自制をしていると指摘。中国の軍事費は日本の2倍以上で膨張しており、「力や脅しで現状を変更しようとしており、日本だけでなく周辺国が懸念している」と中国を批判した。その上で、中国こそヴォルデモート卿の役割を演じることになると、「お返し」を見舞った。総理の靖国参拝については、「恒久平和への誓い」と題する総理談話や、靖国境内にある世界のすべての戦没者を慰霊する「鎮霊社」にも参拝したことを紹介した。

外務省だけではない。日米議員連盟の中曽根弘文会長らは、1月に訪米し米国議会の議員や国務省幹部、シンクタンクのリーダーたちに、日本の立場と安倍総理の靖国参拝の趣旨を説明し、理解を得た。

1月に発足した国家安全保障会議の谷内正太郎新事務局長は早速訪米し、米国の安全保障補佐官などに安倍外交の真意を米側要人に説明した。谷内事務局長はそのほかの主要国も順次訪問し、わが国は主要国の国家安全保障補佐官ネットワークに加わることになった。

平和国家・国際貢献国家たる日本が蘇ったことを世界に知らしめるべく、政府が一体となって「地球儀俯瞰外交」を活発に展開することを期待したい。

[「自警」2014年2月号「日本から見た世界 世界から見た日本 第35話」より転載]