近年における中国の貿易動向

1990年代の中国は労働集約的な産業構造に依存しており、開発途上国型の貿易パターンを示していたが、近年はその状況が大きく変化している。例えば、1993年の中国の輸出品目の中でもっとも大きな割合を占めていたのは繊維製品(38.55%)や紙製品(12.16%)であり、輸入品目では機器(22.85%)や電化製品(13.77%)、鉄鋼(12.59%)であった。しかし、2010年になると、輸出品目では繊維製品(16.60%)を大きく上回って、電化製品(32.74%)が増大し、輸入品目では電化製品(21.34%)およびエネルギー(14.84%)、化学製品(13.21%)が大きな割合を占めるに至っている。貿易量の変化も顕著であり、電子製品類は1993年と比べて2010年には約60倍に増大している。電子製品の世界全体の貿易総量に占める中国の貿易量の割合も2.3%から38%に増大している。こうした中で、石油、鉄鋼石、石炭などの輸入による赤字を、ローテク製品の輸出でカバーするパターンとなっている。こうした貿易パターンは中国の大気汚染へとつながっており、市井の消費者の負担になっている。

電子製品類の輸出増の背景

中国の大幅な電子製品類の輸出増の背景には、日本、台湾、韓国等のアジア諸国から部品を大量に輸入し、それらを加工して、最終製品として輸出するというサプライチェーンの存在がある。特に、中国がWTOに加盟した2001年以降、韓国、台湾、日本そしてASEAN諸国からの中国への部品輸出が大幅に増えている。なお、2001年以降、中国の加工製品の輸出額が部品の輸入額を大きく上回るに至ったが、これは中国国内において高付加価値の製品がより多く製造されるようになったことを示唆している。

中国の貿易収支状況

電子製品類以外の品目では、近年、特に韓国、台湾、日本、ヨーロッパからの輸入額が増えているが、輸出先としてはASEAN諸国への輸出額が増大している。一方、電子製品類を含む加工貿易の輸出先としては、香港、米国が突出して増加している。中国の貿易収支額の全体は黒字と言えそうだが、用いられるデータには留意する必要があろう。ある国際的に有名なデータと中国当局発表のデータでは、特に「輸入総額」と「貿易収支」において大きな差がある。後者のデータに基づけば、中国の貿易黒字額は低く算出される。貿易統計については、中国と香港の間の部品やりとりにも不合理な動きが見られ、鵜呑みにはできない。またアンダーヴァリューされていた人民元は、かなりの速度で切り上げられたものの、サプライチェーンを構成する台湾や韓国の通貨の(安い)為替レートとの組み合わせで、中国の輸出が人工的に後押しされている。

東アジアそして中国の経済発展へ向けた方策

 中国では、人工的に押し下げられている地価や金利水準、燃料費に加え、人工的に押さえられている低い賃金、環境基準の無視等があり、このように一般国民にコストをしわ寄せし、企業に徒に有利な条件を作っていることも、中国企業が競争力を維持している理由である。中国政府はこれらの条件を改善し、教育分野での投資を拡大するなどして、中国人労働者の生産性を高めるべきだと考える。これは中国の一般的な人々の生活や購買力の改善にもつながり、より健全な経済成長を促すのではないかと思う。東アジア全体が経済的に成長していくためには、中国の主要なサプライチェーンを形成するアジア諸国において、おしなべて対米ドルでアンダーヴァリューとなっている自国通貨の水準を高め、通貨を安定させ、もって人々がより多くの物品を輸入できるようにすることも大切である。

(文責、在事務局)