『近くて遠い・韓国とどう付き合うか』
2013年 7月15日
平林 博
日本国際フォーラム副理事長
韓国の反日度が増している。わが国においても、嫌韓感情は増大しており、「悪韓論」等と題した韓国批判本が売れている。中には、在日韓国人や中国人の学者や作家による批判本も目につく。韓国とはどう対処すべきなのか。
日韓関係は、昨年8月の李明博(イ・ミョンパク)大統領(当時)による突然の竹島上陸で急速に悪化した。朴槿恵(パク・ウネ)政権の誕生は期待をもたせたが、韓国政府およびマスコミの反日的言動は収まることはなく、日韓関係は最低になった感がある。閣僚級対話も拒否し、大統領は日本を避けて中国訪問を優先させた。パク大統領は、米国議会での演説で名指しこそ避けたが日本批判を行った。安倍政権に敢えて「右傾化」のレッテルを張り、慰安婦問題などでは国連やその下部機関でも執拗に批判、非難を繰り返している。政権発足後、相当数の閣僚がスキャンダルなどで辞任したほか、北朝鮮に対しても有効な手を打てないパク弱体政権は、マスコミ・国民の反日感情に配慮せざるを得ないのであろう。
よく言われるように、韓国民は、「怨」の感情をなかなか払しょくしきれない。韓国は日本となるとライバル意識を燃やし、外交的ないし道義的に優位に立とうとする傾向があるが、歴史問題などは日本を守勢におくのに好都合な手段と思っている節がある。
日本が同様に占領した台湾は、一貫して親日的である。旧植民地諸国の宗主国に対する感情には複雑なものがあるだろうが、例えば、インドの英国、アルジェリアのフランス、インドネシアのオランダ、フィリピンのスペインに対する行き方は、理性的でありバランスが取れている。
これは、韓国の国民性かもしれない。また、(中国同様)愛国教育の名の下に反日教育が連綿として継続し、「反日の再生産」を行っているからであろう。韓国人が歴史を通じて対日優越感を持っていたにもかかわらず、近代史においては「日本にやられた」という感情が深層心理にあるためかもしれない。「歴史に学ぶ」ことは大切であるが、歴史の解釈は国や人によって異なる。例えば、高句麗王朝を巡って、中国と韓国は先鋭に対立している。中国は中国の一王朝として中国史に属するとしているのに対し、韓国は朝鮮人の王朝であり朝鮮史の中の重要な一部と考えている。しかし、両国では、日本に対しては、彼らの歴史観と同一であることを求める。
韓国は、わが国と民主主義など基本的価値観を共有し、北朝鮮に対しては協力して当たる関係にある。そのためか、わが国の歴代政府は、韓国に対し「腫れもの」に触るように対してきた。わが国固有の領土である竹島についても、強硬策をとったり国際世論に訴えたりすることはなかった。
慰安婦問題に関する河野官房長官談話も、あれを発出すれば問題は一応決着するという韓国側の感触を得たからであった。法的には日韓基本条約において「すべてかつ最終的に解決」と記されているが、道義的にはなすべきことがあるとの考えで「アジア女性基金」を設立し、元慰安婦のために何ができるか各国と折衝した。最終的には、韓国人元慰安婦の相当多数が、橋本龍太郎首相のお詫びと同情の手紙とともに、2百万円の「償い金」を受け取った。ちなみに、フィリピンの元慰安婦もほとんどが受け取って解決した。インドネシアやオランダは、先方政府の意向により「償い金」方式ではなく別の方式で対応した。中国は、当時問題にしなかった。現在、日本大使館の前で毎週シュプレヒコールを上げているのは、首相の手紙と「償い金」を拒否した少数の元慰安婦とその支持者たちである。問題は、これを国際化しようとの動きである。在米韓国人が慰安婦の銅像を米国で建立したり、韓国政府が国連人権委員会で対日批判をしたりすることは、放置できないであろう。
残念なことに、これまでの日本政府の対韓配慮は、報われること少なかった。例えば、韓国は、日本の安保理常任理事国入りに反対する勢力のリーダー格である。
では、韓国とはどのように付き合うべきか。卑見では、世界中で韓国、中国そして北朝鮮の3カ国だけが反日感情を隠さない。日本が戦争によって侵略ないし迷惑をかけた東南アジア諸国や戦争の相手であった連合国を含め、3カ国を除くすべての国が、過去は過去として、現在の日本と日本人を高く評価している。
従って、第一に、日本は堂々としていればよい。二国間で韓国が反日姿勢を示しても受け流していればよい。わが国にも韓国に呼応するマスコミなどもあるが、右顧左眄しないことだ。第二に、ただし、国際場裏では、わが国の評価や国益を損なわれないよう、外交上も国際世論対策上も、積極的に堂々とわが国の立場を主張し、いわれなき批判・非難には敢然と反論する必要がある。国際場裏では、「沈黙は金」ではなく、「謙譲は徳」ではない。特に、米国においては、170万人の米国系韓国人が、数にものを言わせて米国政府や議員に日本の非を訴え、米国を利用して日本に圧力をかけようとしている。わが国は、米国世論への発信と米国要路へのロビーイングで韓国に相当後れを取っている。挽回が必要だ。
第三に、敢えて反韓感情を煽る必要はない。他方、配慮をし過ぎることもない。是々非々で付き合うとよい。北朝鮮との関係など、日本が韓国を必要とするよりは韓国が日本を必要とする度合いの方が大きい。東アジアでのインフラ建設、制度の改善・調和、人的交流などの地域協力では、中国、韓国を含めたアセアン・プラス・スリー間の協力を粛々と進めるとよい。
第四に、できるだけ韓国人が日本を訪れる機会を増やすべきである。観光(医療観光を含む)、国際会議、スポーツなど、韓国人の訪日を奨励するとよい。昨今の円安は好機である。かつて、細川護煕元首相が熊本県知事であった際に表敬訪問したことがあるが、細川知事(当時)が言われたことは忘れがたい。
「熊本県では、韓国の高校生の修学旅行を沢山受け入れており、ホームステイもある。ホームステイを終わって帰国する際に、多感な韓国高校生のほとんどは、『日本はよい国だ。日本人は親切だ。韓国で教わったイメージと違うことがわかってよかった』と言って感謝して帰る。中には涙を流す学生もいる」。
第五に、わが国の教育において、近代史をもっと重視し、学ばせる必要がある。明治維新以来のわが国の急速な近代化と興隆は世界を瞠目させたが、光もあれば影もあった。戦争も経験せず戦後のどん底も経験していない若い世代は、ともすれば日本人としての心柱がなく、国際的発信力にも欠ける。英語教育も抜本的に強化するべきである。この点は、中国や韓国を見習うべきである。
日韓関係が超親密になることは期待しないが、普通の関係になってほしいとは思う。
[「自警」2013年7月号「日本から見た世界 世界から見た日本 第28話」より転載]