深化する日本との協力関係

米国国防総省は2010年4月に「核態勢の見直し(NPR)」を発表した。また相前後して、アジア太平洋地域においては日本との対話の強化が重視され、拡大抑止に関する米日対話が年に2回開催されることとなった。その大きな目的は、政策対話を実施することを通じて、米日双方の認識の共有化を図りつつ、抑止力についての理解を一層深めることである。国防総省は、このように対話を制度化し、過去4年間に及ぶ日本との対話は、アジア太平洋地域における戦略的安定性や様々な課題についての認識共有が進むなど、大きな成果を挙げている。

アジア太平洋地域の新たな動向

アジア太平洋地域では近年、新しい安全保障環境が生まれている。まず、北朝鮮が核兵器の運搬能力を得た。これにより日本の安全保障問題の専門家は、北朝鮮の核保有が「デカップリング」効果や「スタビリティ・インスタビリティ・パラドックス」を惹起するのではないかと懸念している。前者は核の脆弱性(nuclear vulnerability)をめぐり、かつてヨーロッパでみられた米国の拡大抑止の信憑性への懸念であり、後者は核兵器を双方が持った結果としての核兵器の安定が、実は通常兵器による攻撃という不安定をもたらすのではないかという懸念である。中国の武力の近代化そのものとそのやり方、すなわち弾道ミサイルや原潜発射型の核戦力の高まり等に対処する必要が生じている。今日考えるべき根本的課題は、「戦略的安定性(strategic stability)の今日的意義は何か」、ということであり、ロシアや中国のケースと北朝鮮やイランのケースとは違うものである。

オバマ政権による核・ミサイル戦略の展開

 冷戦時代において核兵器は、対ソ連の抑止と同盟国への安心供与をもたらしたが、今日の世界はより複雑である。つまり、冷戦中は最大脅威のソ連に対する核戦略を考えれば、世界のどこでも通用するものであったが、今日の世界は様々なアクター、地域、歴史、政治的環境から成っているので画一的解答はない。このため、オバマ政権の戦略は「包括的(comprehensive)」核・ミサイル戦略と呼べるものであり、同盟国との関係強化、通常兵器による均衡、米本土防衛と通常兵器による攻撃力の組み合わせによるリカップリング、サイバー空間の監視、そして手作りの地域ごとでの核抑止、を念頭に置いている。

(文責、在事務局)