季志業中国現代国際関係研究院常務副院長

(イ) 中日関係が非常に困難な時期にあることは確かだが、だからこそ今われわれは、お互いの智恵を絞り、協力し合って、この難局に立ち向かわなければならない。中日友好のために努力した両国の指導者たちは、中日両国が「引越しの出来ない隣人同士」であることを強調し、中日国交正常化を成し遂げたが、日本および米国との関係正常化なしに、1978年から始まった中国の「改革開放」の実現はない。その意味では、今日の中国の発展は日本や米国との関係正常化によるところが少なくない。2006年に合意された「戦略的互恵」も重要な原則であるが、両国関係にとっては「利益」の共有だけでは不十分であり、その関係発展の前提としては、改めて「友好」の必要性を指摘したい。

(ロ) 中国は全体的にはまだ貧しい国であり、1億人の貧困層がいる。ジニ係数は0.61%と高く、都市化率はまだ50%を超えたばかりである。経済の発展が最大の国家的課題だといえる。他方、日本も少子高齢化のなかで、この20年間経済の低迷がつづき、今回の総選挙でもその最大の争点は景気回復であった。ということは、中日両国の指導者のやりたいことは一致しているということである。中国の「改革開放」も、日本の「景気回復」も、中日関係の発展から利益を得ている。中日両国の指導者にとって、これ以上中日関係の改善をないがしろにする理由はないといえる。

(ハ) 今後の中日関係を見通す上で、まず注目すべきは、中国が「世界の工場」から「世界の市場」へと移行しつつある現状である。ある専門家によると、この数年のうちに中国の内需は約4兆ドルになると見込まれており、中国を最大の貿易相手国とする日本にとって、中国の地位は更に強まるだろう。また、先の第18回中国共産党大会報告にて、初めて「エコ文明建設」という言葉が用いられたが、内需が増大するなかで、省エネや環境対策の分野で優位性を持つ日本との協力は、中国にとっても非常に魅力的である。

(ニ) 他方、中日関係の改善のためには、過去の「歴史」にかかわる問題、台湾、チベットなどの「統一」にかかわる問題、尖閣諸島などの「領土」にかかわる問題の3つの問題については、今後日本が過度に中国を刺激しないように、賢明な対応をお願いしたい。一方、中国も日本を刺激するべきではなく、国民の間の非理性的な声を放置するのではなく、指導する必要がある。また、両国とも政府が感情的・近視眼的な民意に踊らされるのではなく、国民を理性的な方向に導く必要があり、政治家、メディアや有識者もその責任を自覚し、一定の役割を果たすべきである。

(ホ) 尖閣諸島問題をめぐる日中関係の悪化の根底にあるのは、尖閣諸島問題を「棚上げ」するというコンセンサスに対する中日間の認識の違いである。2010年9月の尖閣諸島沖での漁船衝突事件における日本政府の対応として、漁船の拿捕はある程度理解できるが、一連のプロセスを日本の国内法に基づいて処理したことは、この「棚上げ」というコンセンサスを否定することになるのではないか。また、今年の石原都知事による尖閣諸島購入問題に対し、日本政府が同諸島の国有化という策で臨んだことも、同様に「棚上げ」というコンセンサスを否定することにはならないか。国有化は取り消せないだろうが、事態を沈静化させ、エスカレートさせないようにしてほしい。

伊藤憲一日本国際フォーラム理事長

 「試練の時」を迎えている日中関係の将来像を描く上で、季副院長のご報告は大変有意義であり、かつ日本の指導者層が今まさに傾聴すべき内容であったと評価している。正直なところ、今回のご報告では、日本に対する痛烈な批判が含まれるだろうと予測していたが、季副院長が理性的かつ建設的な立場から、未来志向の日中関係を模索する提言をされたことに敬意を表したい。日本国際フォーラムは、2012年1月に第35政策提言「膨張する中国と日本の対応」を発表したが、同提言は日本が「自存自衛」の体制を備える必要性を指摘しつつも、必ずしも「目には目を、歯には歯を」というロジックではなく、むしろ「問題の小状況に反応する前に、大状況を把握せよ」として、中国にも「責任ある利害関係者」として「今後の国際秩序形成への関与」を呼びかけたものである。中国による尖閣諸島での領空・領海の侵犯行為の反復には、不信感を覚えざるを得ないが、今回の対話のように、両国の有識者同士が意思疎通を図ることによって、それぞれの誤解を解き、理解を深めることができれば、それは、日中関係の建設的な基礎を築く作業となるであろう。

(文責、在事務局)