原子力発電を巡る現在の国際情勢

福島原子力発電所での事故は大惨事であったことは確かだが、その後世界各国が一気に「脱原発」へと舵を切ったわけではない。原発を巡る現在の国際情勢はむしろ逆であり、既存の原発保有国は引き続き原子力を国の最重要エネルギー源として位置付けている。チェルノブイリ原発が所在する現在のウクライナは、今や原発推進国であるが、新しい型の原子炉導入を検討し始めた。福島原発での事故の後に、原発の導入を初めて決定した国も多く、中でもサウジアラビアやアラブ首長国連邦など、世界有数の原油産出国が原発導入に踏み切ったことは興味深い。この背景には、原発は環境負荷が小さいだけでなく、原油など有限なエネルギー資源と比較して、高い持続可能性を有していることなどが挙げられる。

インドにとっての原子力エネルギーの位置付け

 インドもまた、原子力エネルギー政策を維持・推進している国の1つであり、原子力を長年専門としてきた私個人の原発に対する見解も全く揺らいでいない。インドは現在、開発途上国ではあるが、インドが今後も成長し続け、先進国の仲間入りをするのであれば、原発は必要不可欠である。とりわけ、インド人1人あたりのエネルギー消費量は、今後6倍から7倍に増える見込みであるが、12億の人口を抱えるインドのエネルギー需要に対しては、原発以外の手段をもって応えることは難しいだろう。インドで発電されている現在の原子力エネルギー総量は、全体の4%に過ぎないが、2050年までには25%から45%程に増える見込みである。

国際公共財としての原子力技術

 日本国際フォーラムでは今年6月に第36政策提言「グローバル化時代の日本のエネルギー戦略」を発表したと聞いたが、中でも特に「提言7:わが国は、原発の安全性を高めながらこれを維持することにより、原子力の平和利用への国際貢献を続けよ」については、大いに賛同している。なぜなら、原子力技術に係る科学的知見や蓄積(nuclear heritage)は、「国際公共財」としての性格を有するからである。現在、世界は深刻な地球温暖化問題や資源の枯渇といった環境問題に直面しているが、これらの問題を解決しつつ、持続可能な形でエネルギー供給を続けることが出来るのは、原発をおいて他にないであろう。また、原子力技術の更なる研究・開発においては、国際的な協力体制の構築が欠かせないが、日本は原子力技術において世界のリーダー国であることから、これを牽引していくことが期待されている。

(文責、在事務局)