ヴィクトル・トヴィルクンBSEC事務総長

BSECは、ソ連崩壊後の黒海地域の新しい政治経済制度づくりを模索するなかで、黒海地域の平和、安定、繁栄を目指す地域協力スキームとして、1992年6月にトルコの主導により、11カ国を加盟国として設立された。その後1999年には憲章を発効し、地域機構としての形式を整えた。BSECは、政府機関、国際事務局、議員会議、ビジネス評議会などからなる複合的な組織であって、現在、加盟国12国、オブザーバー国17国、分野別対話パートナー(Sectoral Dialogue Partners)16国で構成されている。BSECは発足後20年の間に、その地域協力の礎となる文書として、2001年に経済アジェンダを採択し、2012年6月にはその改定版を採択している。2012年の改定版では、長期的視点にたち、BSEC加盟国が優先的に協力すべき17分野が定められ、それぞれについて作業部会が設置されているが、とりわけ重視しているのが、交通、エネルギー、環境、科学技術、観光、の5分野である。これらの分野において、BSECは、オブザーバーや分野別対話パートナーとともに、分野別の大臣会合の開催や、ほかの地域機構や国際機構から専門家を招いた作業部会の開催をつうじて、課題解決にむけた共通の方法を模索している。黒海地域には、域内紛争(トルコとアルメニア、アルメニアとアゼルバイジャン、ロシアとグルジア、ギリシアとトルコなど)があるが、BSECによる作業部会や大臣会合は、これらの対立諸国間での対話を可能とする「よきプラットフォーム(Good Platform)」となっており、紛争防止に役立っている。経済アジェンダに基づいた具体的な取り組みの一例を挙げると、交通分野では、各国間の法制度の調和をつうじた域内外での良好なビジネス環境の構築を目指すべく、黒海環状高速道路の建設や、域内の物資輸送の円滑化のための国境での待ち時間のモニタリングや加盟国間での秤量手続きの統一化、などがある。BSECとしては、日本にはとくに交通・エネルギー・環境分野における作業部会やプロジェクトへの専門家の参加を提案したい。なお、観光分野においては、過去20年間でこの地域を訪れる日本人観光客が増えている。

セルゲイ・ゴンチャレンコ・ロシア外務省経済協力局次長

日・黒海地域協力の発展に向け、2013年2月に東京で開催される「日・黒海地域対話」のような会議を、黒海地域に対して高い関心を有するほかの国でも開催すべきである。たとえばオーストリアは、黒海地域におけるビジネス拡大に熱心であり、同国の在ロシア大使によれば、同国の20近い主要企業が黒海地域に進出しているという。また、ロシアも開催候補地の1つであるが、開催の場合は、現在ロシアには黒海地域が抱えている状況や問題について同じ地域的な観点から現状をよく理解している地方出身の政治家等がいるため、彼らの参加が望ましい。

河津邦彦外務省欧州局中・東欧課課長

 黒海地域は、中東、ロシア、ヨーロッパの3つの地域が交わる場所に位置する地政学上重要な地域であり、多くのエネルギー供給ルートが交差している。日本政府は、BSECによる黒海地域での経済協力が、同地域の政治的紛争の減少に寄与すると考えている。 しかし、日本政府は、BSEC加盟国それぞれとは良好な二国間関係を構築しているものの、BSECという地域機構自体との関係構築はまだ途上であり、相対的に同地域へのコミットメントは少ない。一方、グローバル・フォーラムは早くからBSECとのコンタクトを図り、2005年には第1回「日・黒海地域対話」を開催し、同地域との関係を構築してきている。日本政府は、グローバル・フォーラムの後追いのような形になるが、同フォーラムの対黒海地域協力のあり方から学びながら、グローバル・フォーラムとともに同地域に関わっていきたい。

(文責、在事務局)