ラスト・デミング元米首席国務次官補代理

(イ)日米同盟の歴史的展開
私は日米関係の推移とその展開を、はじめは外交官の息子として、次に私自身が外交官となって、そして今は研究者の立場から、半世紀以上もの間観察してきたが、日米同盟は近代国際関係史上最も成功した同盟の一つであると考えている。約60年前に私が初めて訪日して以来、両国は様々な出来事を経験してきたが、その1つの転換点はやはり冷戦の終結であろう。当時、日米両国は熾烈な通商交渉の最中にあったが、そのなかで湾岸戦争、続いて第一次朝鮮半島核危機の発生を迎えた。日米両国は、そこで「同盟の再定義」に取り組むこととなり、これが1996年の「日米共同宣言」と、続く1997年の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の策定へとつながった。それが9.11後の、小泉政権の米国への強い支持表明につながった。民主党鳩山政権になって、普天間基地移設問題などをめぐり、再び同盟のあり方が問われる状況になったが、この2年間について言えば、3.11後の「トモダチ作戦」の成功などもあって、日米同盟は信頼関係を取り戻しつつあると言えよう。

(ロ)日米同盟の今後の課題
東アジアおよび世界の平和と安全に対する日米同盟の重要性は依然として変わらないが、健全な同盟関係を維持するためには同盟のきめ細かな管理が必要である。とりわけ、在日米軍基地の円滑な運用を確保することは、拡大抑止の信頼性や不測の事態への対応にとっても重要であり、引き続き真摯に取り組むべき課題である。中国は今や日米双方にとって重要な経済大国であるが、急激な軍事力の増強やそれを背景とした海洋進出に対しては、日米が共にヘッジをかけ、警戒を怠るべきではない。北朝鮮問題への対応を巡っては、日米韓による更なる政策調整が必要であるが、現在の日韓関係は歴史問題のみならず領土問題を抱えており、それが十分な防衛協力の障害となっている。日韓両国には、過去ではなく、現在の問題に目を向けてほしい。

(ハ)日米同盟を支える経済関係と人材
日米経済関係もまた、日米同盟にとって重要な要素である。この経済相互依存関係がなければ、両国から日米同盟に対して合理的かつ政治的な支持を取り付けることは難しい。日本は現在、TPP交渉への参加を見送っているが、日本の参加はアジア経済のみならず、世界経済にとっても重要な要素となるものである。また、長期的には両国の人材交流の重要性も指摘しなければならない。米国における日本人留学生は、1990年代後半までは1位であったが、近年7位へと転落し、この10年間で33%激減した。さらには、日米関係を牽引する両国の政治的リーダーシップも欠かせない。特に日本では、この数年間で首相が何度も交替する状況が続いているが、このような状況では十分な関係構築は見込めない。また、両国の国内財政悪化は防衛費の更なる制限をもたらしかねないが、リーダーシップ不在の状況が続くと、同盟関係が空洞化する恐れもある。

ジェームズ・プリスタップ国防大学国家戦略研究所上席研究員

 私も「日米同盟は、近代国際関係史上最も成功した同盟である」との評価に同感だ。確かに、1980年代から90年代にかけて、日米両国は大きな経済摩擦を抱えたこともあるが、日米両国は共通の利益に加え、共通の価値観を持っており、さらに強いリーダーシップをもった指導者に恵まれてきた。近年、日米両国は、中国やインドの台頭による地政学的な大変動に直面しており、また国内に多くの問題を抱えているが、両国は、これらの挑戦を乗り越えてゆくであろう。

(文責、在事務局)