強まる軍部の独裁体制

北朝鮮の指導者と言えば、多くの人々は金日成、金正日そして金正恩の名を挙げるだろうが、しかし本当の意味で指導者といえるのは、金日成のみである。1993年10月、私は米国の連邦議会議員らと共に同氏に会う機会を得たが、彼は優れた政治家であると共に、人民と軍部からも「日帝」と「米帝」を打倒した「偉大なる首領様」として崇められていた。しかし、後継者の金正日は、人民からも軍部からも支持されていなかったため、1998年に「先軍政治」を国の指導理念として受け入れ、軍部からの支持を獲得する必要があった。これにより、軍部の影響力は労働党のそれを上回るようになった。実際、この10数年間、北朝鮮による公式的な対外発表等を注意深く見ると、多くの文書が労働党の外交部によってではなく、国防委員会の名によって公表されていることがわかる。また、2008年に金正日が脳卒中で倒れてからは、軍部の力がより一層強化された。彼の地位は、軍部の支持がなければ、息子(金正恩)を後継者にすることさえ出来ないほど脆弱であった。韓国海軍哨戒艦の撃沈や延坪島への砲撃は軍部の望んだことで、金正日がこれを黙認せざるを得なかったのは、その表れである。北朝鮮の新たな指導者となった金正恩は、非常に若く、経験も少ないため、父以上に軍部に頼らざるを得ないだろう。金正恩下の北朝鮮の体制は、金正恩による「独裁」体制ではなく、軍部による「独裁」体制である。

北朝鮮における3つの優先事項

北朝鮮には3つの優先事項がある。第1は、「国家の生き残り」である。金日成時代には「南北統一」が第1の優先事項であったが、金正日がこれを「国家の生き残り」に変更した。金正恩はこの路線を踏襲している。実際、今年4月、彼は3つの公式的なスピーチを行ったが、南北統一については1度しか触れておらず、多くは国家の生き残りや安全保障の重要性を指摘するものであった。軍部による独裁体制下では、「国家の生き残り」とは、実際にはミサイルや核兵器の開発を優先することを意味している。第2は、「経済開発」である。ロシアの知人によれば「北朝鮮の経済開発モデルは中国である」とのことだが、これは中国が社会主義経済であることに意味がある。また、北朝鮮の人々は「資本主義は優雅ではなく、主体思想に勝るものはない」と本気で考えており、今後も資本主義を導入することはないだろう。第3は、「国内の安定」である。首都平壌以外の北朝鮮は、深刻な貧困と食糧難に直面しているが、かといって現在、体制への反乱などは起こりそうもない。これは、人民が、現体制の本当の問題を知らないことに加え、過重な労働と食糧難により疲れ切っているためである。ただし、北朝鮮の経済がいま以上に深刻な状況に陥れば、今後大きな政治的混乱を招く可能性は残る。

北朝鮮に対する「集中的関与」の重要性

 金正日体制下の戦略を継承している北朝鮮の現在の外交戦略は、「二重戦略(two-track strategy)」と呼ばれる。これは、一方では、米国やロシアなどとの交渉を望みながら、他方では、相手が交渉に応じなければ、ミサイルや核兵器を開発し続ける、という戦略である。その典型例は、今年2月の米朝協議とその約1ヶ月後に北朝鮮が強行したミサイル発射実験である。北朝鮮は今後も、米国が韓国や沖縄から米軍を撤退させないかぎり、ミサイルや核兵器の開発を止めないだろう。北朝鮮はまた、その基本的な外交戦略として、特定の大国(たとえば、中国)にだけ頼るよりも、複数大国間でのバランスをとることに努めるだろう。今年2月に北朝鮮が米国との交渉に踏み切ったのも、その表れといえる。北朝鮮に対して、我々が取るべき方策は「集中的関与(intensive engagement)」である。これはかつてレーガン政権がソ連に対して、またブッシュ(父)政権が中国に対して実践した戦略であるが、北朝鮮に対して、マクドナルドやコカコーラなどの多くの資本主義の成果を集中的に投入することで、徐々に北朝鮮内部における変化を促し、北朝鮮のプロパガンダを打破すると同時に、北朝鮮との交渉を続けるのである。

(文責、在事務局)