中東における民主化運動の評価

チュニジアにおける一青年の焼身自殺は、後に「アラブの春」と呼ばれる中東地域全体を巻き込んだ民主化運動へと発展した。この一連の民主化運動は、歴史的な出来事として人々の記憶に留められると思うが、それは同時に、いかに「新しい中東」を作ることが難しいかを示すものでもあった。エジプトの独裁政権を打倒した民衆は、今や深刻な社会的、経済的問題に直面しており、独裁政権後の国内情勢に対して懐疑的になっている。エジプトにおける民主化は、他の中東諸国にとってのモデル・ケースになるはずであったが、そうなっていないのが実状である。シリアでは、依然として政府とデモ隊との衝突が続いているが、アサド政権はそう長くは続かないと思われている。しかし、アサド政権後の新しい体制が、民衆に対してより良い生活を保証するとは限らない。
「新しい中東」づくりを左右する重要な要素は、アラブ地域に住む人々の約6割強が30歳未満の若年層だということである。彼らは、民衆の暮らしのことを全く考慮しない政治に愛想を尽かしており、新しい体制にも希望を見出せていない状況である。本当の意味で「アラブの春」が実現するのは、今ではなく、まさに若者によって拓かれる次の世代であろう。

不安定化する中東とイランの核開発

今の中東情勢を端的に表現するならば、それは「不安定性(instability)」と「不確実性(uncertainty)」である。中東は現在、カダフィー後のリビア、政府とデモ隊との衝突が絶えないシリア、米軍が駐留するイラク、新しい政府が誕生したチュニジア、選挙が行われたエジプトなど、大きな変動期にあり、不安定化している。そうした中、この地域における旧来の大国イランは、核兵器の開発により、その影響力を維持、強化しようとしている。これはイスラエルだけでなく、中東地域全体にとっても大きな脅威であり、より一層の不安定化と不確実性を招いている。仮に、イランが核を所持すれば、トルコ、エジプト、サウジアラビアなどの周辺各国は即座に核開発を始め、その結果、将来的にはNPT体制の崩壊にもつながるだろう。

中東におけるイスラエルの役割

 大きく不安定化する近年の中東情勢の中で、イスラエルは「強さ(strength)」と「責任(responsibility)」を持って、この地域に関わっている。強さは、安全保障、経済、社会などのすべての分野において求められる。責任は、荒波の中にある中東において、その舵取りをしっかりと行うことである。とりわけ、安全保障における強さは非常に重要である。イスラエルの人々は、ユダヤ人としての権利と祖国における建国を胸に、平和の名のもとで一致団結しているが、それを支えているのがイスラエルの安全保障である。私たちはまた、安全保障上の大きな懸案であるパレスチナ問題について、責任を持って解決しようと努力しており、イスラエルの経済力のパレスチナへの利用を通じた和平構築などにも取り組んでいる。現に、パレスチナ人自治区は、経済的に豊かになってきている。
なお、ユダヤ人入植地に関する問題は、パレスチナとの和平構築において、大きな障害にはならないだろう。なぜなら私たちは、入植地問題の最終的な解決が、入植を止め、撤退することだと知っているし、それを行う準備も出来ているからである。実際、私たちは、ガザ地区からすでに撤退している。しかしパレスチナ側は、この入植地問題を直接的な交渉に入る前の「前提条件」として位置付け、直接対話自体を行おうとしない。しかし、真の平和は、当事者同士による直接的な対話によって初めて達成される。国連による一方的な方策も真の解決をもたらさない。

(文責、在事務局)