第76回外交円卓懇談会
「近隣諸国との付き合い方について」
2012年2月17日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
日本国際フォーラム等3団体の共催する第76回外交円卓懇談会は、李鋼哲北陸大学未来創造学部教授を報告者に迎え、「近隣諸国との付き合い方について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2012年2月17日(金)午後3時00分より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「近隣諸国との付き合い方について」
4.報告者:李鋼哲 北陸大学未来創造学部教授
5.出席者:22名
6.報告者講話概要
李鋼哲北陸大学未来創造学部教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
日本と中国の相互認識のズレ
日本人は素晴らしい知的資産を持っており、ODAによる経済的貢献以上の知的貢献をする能力があるが、現在の日本人の近隣諸国との付き合い方をみると、とくに中国に対してだが、研究者や学者の多くは的確な認識をしているものの、政治家、マスコミ、世論は片面的にしか捉えておらず、そのために不必要な損をしているように思う。江戸時代までの日中両国人の相互認識には、長期にわたる文化交流を背景として、共通の価値観が多かったが、明治時代以降、日本が西洋の思想を取り入れるにつれ、ズレが生じてきている。例えば、日本人は中国を「独裁国家だ」と思っているが、現実の中国は、とくに鄧小平時代以降集団指導体制を取っており、国家主席でさえ単独で物事を決定する権限はない。すなわち、中国は「独裁者不在の独裁国家」なのである。また、日本人は「中国には中華思想がある」というが、確かに孔子や孟子などの思想には中華思想といえないこともない要素があるが、それが今の中国の国家指導原理であるとは言えない。最後に、中国の指導者達の世界観だが、彼らは第二次世界大戦後の世界では「覇権主義は通用しない」と考えている。「多極化に向かう」というのが、現実の認識ではないか。
現在および次世代の中国指導者像
中国の指導者の思考方式の特徴は、弁証法や唯物史観などのマルクス・レーニン主義哲学に基づいていることである。さらに具体的に指導者層の特徴を世代別にみてみると、現在の中国指導者層の多くは、1960~70年代に毛沢東によって農村に下放された経験をもつ。また、彼らの中には習近平や薄煕来などの「太子党」と呼ばれる共産党幹部の子弟がいるが、彼らは青年期に農村で一般民衆と信頼関係を築き、実績を積んで出世の階段を上っているため、「太子党」だからと言って否定してよいのかは疑問である。むしろ注目すべきは、その次の世代に指導者となりうる層を見てみると、彼らの多くが1980~90年代に外国留学の経験をもっていることである。海外で知見を広めた彼らが指導者となることで、政治体制改革の可能性もでてくるのではないか。2008年に胡錦濤国家主席は「共産党の支配は永遠なるものではない」と述べているが、これは、裏返せば共産党支配体制への危機意識の表れだといえる。
近隣関係に関する中国の考え方
日中両国の歴史を150年間という長いスパンで比較すると、日本は、その前半は対外拡張や植民地支配を実施するなど列強の一員として振る舞い、後半は対米追従と対アジア政策の両立でアジアとの関係修復を模索するが、領土問題、歴史認識といった前半に生じた「負の遺産」を精算できないでいる。一方、中国は、前半には欧米日列強に半植民地化されたが、後半には途上国として再スタートし、経済発展した現在も「発展途上国である」と主張するが、それは自国を「第三世界の代表」として認識しているからである。中国の外交政策を見ると、その基本路線は「韜光養晦(才能を隠して実力を蓄える)」であり、近隣諸国との関係においては「睦隣、安隣、富隣(善隣と友好、隣国の安定、隣国の繁栄)」を重視している。江沢民は2004年に中露国境画定に合意したが、それは「実質的にアイグン条約や北京条約で失った広大な中国領土を放棄する合意にほかならない」として、ネット上などでは江沢民を「売国奴だ」と批判する声も聞かれる。しかし、江沢民には「隣国と不仲である状態を継続することは中国の利益にならない」という考え方である。
(文責、在事務局)