第75回外交円卓懇談会
「世界経済危機の安全保障問題への影響」
2011年11月10日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
日本国際フォーラム等3団体の共催する第75回外交円卓懇談会は、マーク・フィリップス英国王立統合軍防衛問題研究所(RUSI)地上作戦研究部長を報告者に迎え、「世界経済危機の安全保障問題への影響」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2011年11月10日(木)午後3時00分より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「世界経済危機の安全保障問題への影響」
4.報告者:マーク・フィリップス RUSI地上作戦研究部長
5.出席者:16名
6.報告者講話概要
マーク・フィリップスRUSI地上作戦研究部長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
世界経済危機の安全保障への様々な影響
昨今のギリシャとイタリアにおける首相の辞任、米国や欧州におけるストライキや抗議デモなどに代表されるように、各国の政情不安や社会的動乱の多くは世界経済危機に起因している。2008年のリーマン・ショックに端を発した世界経済危機は多くの国々と人々に影響を与えたが、3年が経過した現在も、国内安全保障、食料・エネルギー安全保障、地政学的安全保障という3つの安全保障分野において様々な不安定要素をもたらしている。
国内安全保障への影響
世界経済危機の影響としては、ギリシャやイタリアなどで政情不安が観察される一方、幾つかの政府は自らの非倫理的行動を正当化するための言い訳として、経済危機に起因する政情不安を利用している。例えば、フランス政府はフランス系企業に限定して補助金を与える政策をとっている。これは域内相互発展を目指すEU精神に背反するものである。このような経済ナショナリズムは各地域の政治的緊張を高める可能性が高い。一方、人々の反応に目を向けると、政府への信頼喪失から、「アラブの春」のように社会メディアを通じて運動・動乱を起こす事例が見られる。このような国家から個人へのパワー・シフト傾向は今後も続くと予想されるが、生物・化学兵器を生産するための材料・技術へのアクセスが容易になり、テロリズムの脅威が高まる可能性が懸念される。
食料・エネルギー安全保障への影響
急激な人口増加によって食料の需給バランスが崩れ、食料の価格上昇を招いている。経済危機によって所得が減少した結果、食料不足はますます深刻になった。二国間緊急援助や国連世界食糧計画(WFP)は不足分の調達が困難な状況にある。既に多くの国々が食料輸出を削減・制限しており、中国やサウジアラビアのようにアフリカ諸国で広大な農業用地を購入し、食料の長期間売買契約を締結する国々も現れた。国際社会は食料備蓄制度の構築、農業部門への支出拡大などの手段を通じ、問題に対処する必要がある。また、エネルギー資源についても経済危機の影響から需給バランスが崩れており、今後数年間は毎年2%の需要増加と3%の供給減少が見込まれている。さらに、イランなど石油の安定供給が不安視される国、ロシアなど石油・ガスの豊富な埋蔵量を政治的武器とする国もあり、エネルギー資源確保は各国の大きな課題である。
地政学的安全保障への影響
世界経済危機を引き起こし、同時にその影響にさらされている欧米型資本主義は、発展途上国が目指す唯一の経済社会モデルではなくなっている。中国やロシアの経済的台頭により、両国との友好的関係を望む国々は多く、その経済社会モデルは現実的な選択肢として見なされるようになった。このまま経済危機が続けば、パワーは西から東に大きくシフトすることになる。数年後には欧州に大きな変化が生まれ、欧州統合が後退あるいは崩壊する可能性も考慮される。一方、中国とロシアの将来は伝統的な資本主義先進国と比較して明るい。経済危機の中、米中二極対立と保護主義傾向が促進されつつあるが、国際社会のバランスと安定を維持するには、国連安保理の拡大やG8からG20への拡大などの国際的枠組みの組み換えが必要である。
(文責、在事務局)