資源安全保障の歴史と現況

資源安全保障が国家の戦略的課題として浮上したのは、第一次世界大戦時の資源輸出停止に始まるが、第二次世界大戦後は石油などの戦略的資源備蓄の問題として注目されてきた。伝統的に先進国はエネルギー部門や輸送・交通部門に必要な資源の確保に努めてきたが、今日では携帯電話やコンピュータなどのハイテク製品の製造に必要なレアメタルも重要視されるようになっている。特に2010年の尖閣諸島をめぐる日中領土問題をきっかけとして、資源安全保障上のソブリン・リスクが顕在化した。中国が全世界生産量の90%以上を占めるレアアースをどのように安定的に確保するかという問題に、各国は視線を注いでいる。

増大する資源需要と制約される資源供給

一般的に、国の成長とともにインフラ拡大が必要となるため、資源需要は増加する。50年前と比較して、世界の資源消費量は約5倍、一人あたりで約2.5倍になった。中産階級の増加が著しい中国やインド、さらにアフリカ諸国の一部では、一人あたり資源消費量が先進国に接近しつつある。また近年は、技術進歩によってレアメタルを原料に含むハイテク製品の製造コストが低下した結果、買い換えサイクルが短縮化(携帯電話は2~3年)し、消費資源の種類の増加と消費スピードの高まりが見られる。需要が急激に増加する一方で、供給は様々なマイナス要因を抱えている。資源の残存量・質・貯留密度の低下などの採掘条件悪化の傾向に加え、採掘と環境保護の衝突、採掘工程で必要となる水資源確保の困難、ソブリン・リスクの可能性、リサイクル率の低迷など、懸念される問題も多い。約7割の金属資源はリサイクル率50%未満であり、30種以上は同1%未満に過ぎない。

日・米・中の資源安全保障戦略

日本は資源を経済成長の活力とみなし、資源へのアクセス向上と新資源開発に努めている。その成否はレアメタルに依存しない代替技術の開発、資源備蓄、良好な国際関係の構築、リサイクル促進にかかっている。アメリカは資源の軍事面への利用を重視し、レアメタル依存から脱却する代替技術とリサイクル技術の研究開発に努めている。そして中国という資源安全保障上のリスクに対しては、供給減少が価格上昇を導く市場原理を利用して、自国市場への流入資源を増加させる戦略を採る。中国は政治的安定の維持を主要目的とし、資源採掘部門の国有企業の管理強化に努めている。資源の採掘から製品製造までの供給網をコントロールする国内戦略と、輸出を制限する対外戦略によって、国内の資源備蓄を進めながら新技術開発や採掘技術向上を視野に入れている。

資源安全保障の今後の展望

 新興国の経済成長による資源需要の拡大に伴って、資源獲得競争が世界的に激化すると考えられる。レアメタルの他、多くの資源の価格が上昇を続けるだろう。資源採掘と環境保護の競合などの供給面における様々な障害も、採掘コストを上昇させると考えられる。技術開発によって、レアメタルなど特定の資源の需要に大きな変化が生じる可能性も考慮すべきであるが、再生可能エネルギーは資源需要の減少にはつながらず、むしろ多くの鉱物資源の需要を増加させる可能性がある。各国政府は、資源価格の高騰に直面し、その資源管理体制を強化する戦略を採ると考えられる。

(文責、在事務局)