グルジアは小さな国であるが、黒海域とカスピ海域を結びつけ、またヨーロッパと中央アジア、中東、ロシアを結びつける地政学的に重要な位置にある。つまり、西ヨーロッパと中央アジアを結ぶ最も短いルートとなり、経済的観点からも石油、ガスの輸送の際に東と西を結びつけ“自然の橋”となっている。現在のグルジア政府の国内政策は、FDI(海外直接投資)の増大、インフラ発展、社会的弱者への保障、教育と医療保険制度の充実などが、外交政策はNATO加盟、ヨーロッパ社会への参入、ロシア外交正常化、GUAM(民主主義と経済発展の為の機構)、BSEC(黒海経済協力機構)などの地域間の経済協力の促進などが重点的に進められている。グルジアはNATOへの早期加盟を希望しており、2008年4月のNATOサミットでは、グルジアならびにウクライナのNATO加盟が議題となった。これに対しロシアは猛反対を示した。それはグルジア領南オセチア、アブハジアをめぐり、NATOの発言力が高まり、ロシアの支配下から逃れることを恐れているからである。またロシアはNATOの東方拡大を懸念し、ロシア外相は『状況によっては、グルジア、ウクライナのNATO加盟を阻止するためには武力行使も辞さない』とさえ述べている。プーチン大統領(当時、現首相)は、今年4月16日、南オセチア、アブハジアの独立派とその地域に居住するロシア人を正式にロシアの法的支配下に置く旨を発表した。これは南オセチア、アブハジア地域をロシア領域に経済的、軍事的、司法的、政治的に組み込み、独立派体制を合法化させる道を開いた。また、この数ヶ月間にロシアはアブハジアにおいて、軍事的存在を急速に増大させた。5月20日にはグルジアの無人偵察機がアブハジア上空でロシアの戦闘機によって撃墜されるという事件が発生したが、それを否定するロシアは、グルジアへの軍事的侵攻を強化しており、アメリカ、NATO、ヨーロッパはロシアの行動に非難を露にしている。過去16年間に渡りアブハジアと南オセチアにおけるロシアの存在は、紛争解決における仲介者や平和維持者(peacekeeper)ではなく、軍事、経済、文化、人工配置、政治的な手段を使いながら国際的に認められたグルジア領を少しずつ併合しようとしているのだ、というグルジアの主張に国際社会は賛同している。他方でEUはこの紛争の中で重要な役割を果たそうと、最近EU外相はグルジアの大統領とアゼルバイジャンの代表と会談を開いた。グルジアはこの紛争を解決するためのEUの協力を歓迎している。グルジアはロシアのメドべージェフ新大統領がプーチンよりも建設的なアプローチをグルジアに対してとることに期待している。ロシアはグルジア、ウクライナに対して行っている暴力的な政策がやがて裏目にでる危険性を秘めていることを理解するべきだ。『エコノミスト』誌が指摘しているように、『もしもロシアが経済を強化し、国際社会からの関心を手にし、グルジアのNATO加盟を正当化する手助けしたいのならば、彼らはその目標を見事に達成しつつある』。ロシアはグルジアのNATO加盟が、ヨーロッパそしてロシア自身を含む黒海地域に属する国々の間で、平和と緊密な経済協力を促進することを理解するべきである。グルジアとロシアは現在直面している問題を乗り越え、解決し、長期的な関係を築くことが可能である。グルジア大統領は相互信頼と協力をもとにした、建設的な関係をロシアとの間に築こうとしている。また新大統領自身も『二国間の建設的な協力体制の設立』を望んでいると表明した。このビジョンは若い二人の大統領によって共有され実現されるべきだ。

(文責、在事務局)