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2006-11-11 10:53

日本核武装論の死角/日本は核武装したくてもできない仕組みになっている

吉田康彦  大阪経済法科大学客員教授
 北朝鮮の核実験で触発された日本核武装論は、安倍首相の非核三原則堅持の方針再確認にもかかわらず根強く議論されている。安倍首相は「議論」は公認したが、「議論する」ということは賛否両論があってはじめて成立するもので、非核三原則に賛成しながら議論だけしようという立場はおかしい。

 しかし核武装は、非核三原則を変更し、NPT(核不拡散条約)から脱退さえすれば、明日にも可能であるかのように考えるのは無知もはなはだしい。議論する以上、結果をきちんと分析して、裏づけのある主張をしていただきたい。

 日本の核武装はNPT脱退表明ですむ話ではない。NPTも、それに先立って創設されたIAEA(国際原子力機関)も、戦後体制の下で日本とドイツの核武装を阻止するためのシステムとして発足したものであり、日本の脱退はNPT体制が完全に解消し、核拡散が野放しになることを意味する。核拡散阻止を最大の目標とする米国がこれを容認する筈がない。米政府高官、議員、メディアの“挑発”はいずれも中国を牽制し、北朝鮮説得に圧力を加えようとするものであることを知るべきだ。

 国民の総意として原子力平和利用に徹することで日本が国際社会で築いてきた信用は絶大なものがある。「非核三原則」は政府方針にすぎないが、平和目的以外の核エネルギー利用を禁じた「原子力基本法」を守り通してきた官民の努力は並々ならぬものがある。IAEA発足いらい過去半世紀のこの努力が評価されて、IAEAは日本を「統合保障措置対象国」、つまり「放置しても軍事転用をしない国」として、自らは査察量を減らして日本の自主査察を信頼する決定を下したばかりだ。日本核武装はIAEAのこの評価と信用を水泡に帰すことになる。

 それよりも、核武装論論者が全く関心を払わず、ご存じないらしいのは、日本が核開発に着手した途端に燃料のウラン供給が途絶え、電力需要の30%以上を満たしている原子力発電が停止に追い込まれることである。日本全国で稼動中の原発は55基に達するが、これらが停まっても核武装が不可欠だというのだろうか。

 無資源国の日本は核燃料サイクル確立を目指しており、そのためには天然ウラン輸入が不可欠だが、供給先のカナダも豪州も二国間原子力協定で、使途を「平和利用に限る」としている。さらに燃料としてのウラン濃縮は今日なお大半を米国に委託しているが、日米原子力協定はその使途をやはり「平和目的に限定」している。つまり日本が核武装を決意した瞬間からウラン燃料は入手できなくなるのだ。日英・日仏原子力協定も同様で、プルトニウム再処理も停まる。青森県六ヶ所村の再処理工場にはIAEAの査察官が常駐して軍事転用阻止の目を光らせている。いくら核武装を勇ましく論じても、実現性が全くないのでは無意味ではないか。

 それでもあえて核武装しようというなら、パキスタンのカーン博士が構築したとされる「核の闇市場」からウラン、プルトニウムを調達してくるか、ODA(政府開発援助)の大盤振る舞いをしてアフリカ、中央アジアの途上国から強奪してくるかしかない。それとも原発を諦めて、環境にやさしい風力、太陽光、バイオマスに頼りながら、核開発だけを進めようとでもいうのだろうか。
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