資本主義の衝突は、特に目新しい問題ではない。冷戦終結からほどなくして、フランスの実業家ミシェル・アルベール氏は自らの著書“Capitalisme contre Capitalisme”のなかで「ライン資本主義とアングロ・サクソン資本主義の競合」を主張した。しかし、これは「政府と産業界の関係」に関する問題提起にすぎない。他方、ロシアと中国の「自由でない資本主義」と米欧の「自由な資本主義」の対立は、経済にとどまらず、政治と安全保障にも関連した対立である。ケーガン氏とラッチマン氏は、ロシアと中国で再び台頭してきた権威主義を、西側の民主主義に異議を唱え、第三世界で圧制体制の仲間を支援して、西側に対する地政学的な勢力争いで勝利を収めようとするものだと言っている。
ケーガン氏とラッチマン氏は、外交・安全保障や歴史の専門家として「自由な資本主義」と「自由でない資本主義」の対立を論じているが、ユーラシア・グループという政治リスク・コンサルティング会社のイアン・ブレマー会長は、自らの著書 “The End Of The Free Market”で経済人の立場から、この問題を論じている。ブレマー氏は「今はもはやグローバルな自由市場経済の時代ではない。現在の世界には二つの資本主義がある。一つは先進諸国を中心とした自由市場資本主義の体制であり、もう一つは中国、ロシア、ペルシア湾岸諸国に見られるような国家資本主義の体制である。二つの資本主義はお互いに相容れない」と述べている。中国では、欧米の多国籍企業が現地の国策企業を相手に不公正な競争を強いられている。長期的には国家管理資本主義は官僚的な非効率に陥るであろうが、今後5年から10年の間は自由市場資本主義諸国が国家管理資本主義諸国から厳しい挑戦を突きつけられることになる。(つづく)