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2026-07-11 01:54

(連載2)弾道ミサイルまで出てきた中国の「威嚇」

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 さらに、これらの演習やミサイル発射のタイミングをアメリカの独立記念日に重ねてきたことには、極めて意図的で痛烈な心理戦の意味が込められています。独立記念日はアメリカ国民にとって国家の誇りと団結を象徴する最も神聖な祝日であり、ワシントンをはじめ国内が祝賀ムードに包まれる日です。この日にあえて核抑止力の象徴である潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を太平洋へ向けて放ち、ロシアとともに大規模な艦隊を動かすことは、アメリカの祝祭に冷や水を浴びせる行為です。これは、アメリカの防衛網や警戒態勢がどれほど強固であっても、その誇りの象徴である日に合わせていつでも戦略的な打撃力を誇示できるという、中ロ側からの強い挑発であり、アメリカの最高指導部や世論に対する強烈なメッセージとして機能しています。

 このような中ロによる軍事的な威圧に対し、日本、台湾、フィリピン、そして南太平洋諸国が連携して立ち向かうことは、地域の安定を維持するために極めて現実的かつ重要なアプローチとなります。これらの国や地域は地理的に「第一列島線」から「第二列島線」、そして南太平洋へとつながる防衛上の要衝に位置しており、中国の海洋進出やA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略の直接的な影響を受ける当事者だからです。具体的な連携の内容としては、まず第一に「情報共有と早期警戒体制の構築」が挙げられます。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)のように隠密性の高い兵器に対抗するには、一国だけの探知能力では限界があります。日本が持つ高度な警戒監視能力、台湾が有する中国本土近傍の情報網、フィリピンや南太平洋諸国がカバーする広大な海域のデータを相互に、あるいはアメリカを仲介して迅速に共有するネットワークを平時から作っておくことが不可欠です。さらに、共同訓練やパトロールを通じて、中ロの艦隊が太平洋へ進出する際のルートとなる海峡や重要海域での「共同の抑止行動」を示すことも有効です。これにより、中ロに対して「孤立した一国を個別に威圧することはできない」という連帯のメッセージを送ることができます。

 一方で、今回の演習に北朝鮮が入っていないことには、中ロ側の戦略的な意図と、北朝鮮自身の立場という二つの意味があります。まず中ロ側から見れば、今回の演習は「大国としての戦略的抑止力」を誇示するための舞台です。特にアメリカの独立記念日に合わせた戦略核ミサイルの発射実験や大規模な近代的海軍演習は、アメリカと対等に渡り合う力を示す政治的デモンストレーションであり、ここに国際社会から厳しい制裁を受け、核・ミサイルで独自の挑発を繰り返す北朝鮮を直接巻き込むことは、演習の持つ「大国間のパワーゲーム」という文脈を歪め、単なる非難対象の集まりに見せてしまうリスクがあります。

 また、北朝鮮が入っていないことは、中ロと北朝鮮の連携が「全面的な一枚岩」ではないという現実も浮き彫りにしています。北朝鮮は近年、ロシアとの間で有事の軍事援助を含む条約を結ぶなど急速に接近していますが、中国は北朝鮮との関係において、過度な軍事的エスカレーションが日米韓の防衛協定をさらに強固にし、結果的に自国の安全保障環境を悪化させることを警戒しています。中国としては、北朝鮮の暴走をある程度コントロール可能な枠内に留めておきたいため、米中首脳会談の直後という極めてセンシティブなタイミングの演習に北朝鮮を直接引き入れることは避けたと考えられます。つまり、北朝鮮の不在は、中ロが北朝鮮の行動を歓迎しつつも、自国の大国としての軍事戦略とは一線を画しているという冷徹な計算の表れであると言えます。(おわり)
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(連載1)弾道ミサイルまで出てきた中国の「威嚇」 宇田川 敬介 2026-07-10 01:49
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