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2026-07-10 01:49

(連載1)弾道ミサイルまで出てきた中国の「威嚇」

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 今回は、ドイツが中国の大使を呼びつけて抗議をした中ロ軍事演習について見てみましょう。まずは細心の話ですが、7月6日に、中国は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の発射先週を行っています。このことを含めた軍事演習の意味を見てみましょう。今回の中国海軍による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射、および同時に開幕したロシア海軍との合同軍事演習「海上連合2026」は、周辺地域に対する強力なメッセージを含んでいます。ご指摘の通り、単なる定例訓練の枠を超え、日本や台湾、フィリピン、そして南太平洋諸国を射程に収めるような位置関係で行われた今回の動きには、明確な軍事戦略的意図と具体的な演習内容が存在します。

 まず、今回の軍事行動の具体的な内容についてです。中国海軍の戦略原子力潜水艦は、太平洋の公海上に向けて模擬弾頭を搭載した弾道ミサイルを発射しました。日本政府への事前通報では「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」と説明されていたものの、実際には隠密性の極めて高い原子力潜水艦からの発射(SLBM)であった可能性が指摘されており、事前の情報開示と実際の運用における不透明さが周辺国の警戒をより高めています。これと同時に山東省の青島周辺ではロシア海軍との合同演習が始まっており、水上艦艇や潜水艦、航空機が参加する大規模な共同作戦を展開したあと、一部の部隊はそのまま太平洋へ向けて合同パトロールを実施する流れとなっています。次に、この行動の背景にある主な目的についてです。最大の狙いは、アメリカおよびその同盟国・パートナー国に対する「第二撃能力(核攻撃を受けても潜水艦から報復できる能力)」の誇示と、地域への軍事的な威圧です。中国から見れば、日米韓の防衛連携の強化や、フィリピンを巻き込んだ南シナ海での包囲網、さらにはオーストラリアやニュージーランドが南太平洋諸国との防衛協定を相次いで締結している現状は、自国への対抗措置と映っています。今回のミサイル発射とロシアとの連携は、有事の際にアメリカ軍などの接近を阻む「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」の能力が実際に機能することを示すデモンストレーションであり、周辺国に対して「いざとなれば太平洋のいかなる場所も射程に入る」という強い心理的圧力をかける意図があります。

 今回の演習とミサイル発射は、単に兵器の性能を確かめるための技術的な訓練ではなく、二国間の緊密な軍事協力をアピールしつつ、西側諸国の防衛ネットワークを揺さぶるための高度に政治的な軍事シグナルであると言えます。さて、中国はアメリカとの間で5月に米中首脳会談を行ったばかりです。この首脳会談と今回の軍事演習の関連性を見てみましょう。米中首脳会談という最高レベルの対話が行われた直後であっても、両国が軍事的な対峙や演習を止められない背景には、外交と軍事戦略が表裏一体であるという冷徹な国際政治の現実があります。首脳会談の目的は、多くの場合、対立そのものを解消することではなく、偶発的な衝突を防ぐための「防護柵」を設置することにあります。首脳同士が握手をして経済や対話の継続を確認する一方で、国家の安全保障の根幹に関わる軍事力の均衡や勢力圏の争いは一切妥協していません。特にアメリカによる対中包囲網の強化に対し、中国は対話のテーブルにつきつつも、軍事的な実力を示し続けなければアメリカに対して優位な外交交渉ができないと考えています。そのため、会談後であっても、自国の抑止力が健在であることを誇示するための軍事行動が必要不可欠となるわけです。

 そこにロシアが共同で演習に参加していることには、アメリカ主導の国際秩序に対する「二正面作戦」の突きつけという意味があります。ウクライナ情勢を巡って欧米諸国と激しく対立するロシアと、台湾や南シナ海でアメリカと対峙する中国は、共通の対抗軸としてアメリカを据えています。ロシアがアジア太平洋地域での演習に加わることは、欧州での対立がアジアへ連動していることを示し、アメリカとその同盟国に対して軍事的なリソースを分散させる圧力をかける狙いがあります。中ロの緊密な軍事連携は、アメリカが単独で世界の覇権を握る「一極集中」の時代が終わり、複数が対抗する時代に入ったことを国際社会に強く印象付ける政治的デモンストレーションにほかなりません。(つづく)


 
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