しかし、中国でそもそも「法治」(rule of law)の意味が理解されているのか、きわめて疑わしい。中国語の発音では全く同音の「法制」(rule by law)の意味で使われているのではないかと疑われる。「法」とはルールの一種であり、すべての人を縛るものであるだけに、よく知られているように毛沢東は「法」が大嫌いだった。文化大革命を発動する少し前に、彼は久しぶりに再会したエドガー・スノウに向かって「和尚打傘、無髪無天(坊主が傘さし、髪もなく、天もない)」と言ったという。通訳がそれを直訳したところ、スノウは「老人になった毛沢東は、修行僧のような達観した境地に至ったのだ」と解釈したようである。しかし、実際毛沢東が言わんとしたことは、「無法無天」(中国語で髪と法とは同音)、つまり「法」や「規則」を無視し、「やりたいようにやる」という趣旨だった。それから1年、毛沢東は憲法も党規約も無視し、やりたい放題の文化大革命を起こした。