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2013-05-15 10:52
(連載)民主主義は改憲の根拠たりうるか?(1)
河野 勝
早稲田大学政治経済学術院教授
今年の憲法記念日は、21世紀の日本にとっての、ひとつの重要な節目となるかもしれない。このところ、憲法をめぐる議論や論争は著しく活発化している。そのような政治状況であればこそ、われわれは原点に立ち戻り、日本のような民主主義国家にとって、憲法なる文書を起草し、それを政治の中心に据えることにどういう意義があるのかという根源的な問題を考える必要がある。
実は、憲法とは、多数決を意思決定の基本とする民主主義と対立する制度である。民主主義とは、独裁者や専制君主など一握りの権力者が大多数の国民の意思を踏みにじって政治的決定を下すのを排除することを理想とする。これに対して、国民の基本的権利や統治のあり方を定める憲法は、通常、一般の法律とちがい(議会を制する)多数派といえども簡単には変更できない文書として制定される。憲法を起草し、いくつかの重要な政治的決定をあらかじめそれに委ねることには、少数派を多数派の暴挙から守るという意味がある。
憲法が民主主義と逆を向いた制度である以上、憲法を改正する大義として単純に民主主義の理念を掲げることはできない。最近自民党や維新の会などは、現行の96条にある「国会議員の三分の二」という発議要件について、「国民の多数が憲法を変えるべきだと言っているのに、わずか3分の1の議員が反対すれば発議すらできないというのはおかしい」(安倍首相)と批判しているが、この批判は的外れである。多数派に属する人々が自らの意思にしたがって変更できる文書であるならば、国家がそれを憲法として起草する意味はない。
そのような文書に、多数派の暴挙を抑えるという、憲法が本来になうべき役割を期待することはできない。そもそも、96条を改正の手順を定めた手続的な(つまり本質的でない)条項だと理解することが誤りである。96条自体、違憲立法審査権や最高法規性を定めた条項などとともに、憲法の意義そのものを表している本質的な条項なのである。(つづく)
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