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2012-02-03 15:03

(連載)日米は大戦略について議論すべき(2)

高峰 康修  日本国際フォーラム客員主任研究員
 米国の「アジア回帰」戦略を軍事面で具現化する作戦概念として、1月17日にデンプシー統合参謀本部議長が『統合接近作戦概念(JOAC)』と題する重要な文書を発表している。それによれば、A2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略は重大な脅威であり、それに対抗するには米軍は陸海空、宇宙空間、そしてサイバー空間の各圏域に接近できなければならないとして、中国のA2/AD戦略に真正面から対抗することを明確にした。そして、米軍は各圏域を横断するような統合をしなければならないと言っている。従来、A2/AD戦略への対応としては、エアシーバトルという概念が取り沙汰されてきた。

 エアシーバトルは、中国の長距離ミサイルによるA2/AD能力に対抗するに、その射程外に一旦退いた上で、海空の中国を上回る長距離打撃力を組み合わせて撃破する、というようなものであった。これと、米軍再編における原則の一つである「分散配置」が相俟って、日本のような同盟国の重要性が低下するのではないかという懸念が生じていた。しかし、JOACは、エアシーバトルは下位概念であると明確にし、そうした懸念を払拭した。JOACの意味するところは、我が国の重要性はますます高まるということである。JOACは、A2/ADへの対抗においては米軍は犠牲を覚悟しなければならないとも指摘している。これは、想定戦域に近い地域への米軍駐留を重視していると理解できる。具体的には、当然それには沖縄は筆頭に挙げられる。

 このように、普天間をどうするかという問題は、日米間の戦略の問題ではないのである。普天間問題の解決が日米同盟を強化すると考えているとすれば、的外れとしか言いようがなく、JOACが示すような米軍の徹底した統合に我が国が歩調を合わせ、これを支援することこそ日米同盟の強化に繋がるのであって、我が国の安全に不可欠なことである。それにはやはり集団的自衛権の行使容認が第一歩となるであろうし、防衛力増強が必須である。普天間移設問題は、原点に立ち返ればよい。すなわち、1996年の橋本・クリントン合意である。

 この場合、移設が実現するとすれば、日本側の都合による移設であるから費用は全額日本の負担ということになろう。そもそも、普天間の辺野古への移設は沖縄の負担軽減策として出てきたものであり、グアム移転とセットになっている必然性は全くないのである。さらにいえば、グアム移転自体、今や大いに再検討の余地がある。普天間移設問題は、早々に米軍再編とは切り離して、日米はJOACで示されたような大戦略について濃密な議論を始めるべき時機を迎えている。(おわり)
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