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2012-02-02 11:42

(連載)日米は大戦略について議論すべき(1)

高峰 康修  日本国際フォーラム客員主任研究員
 米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、確かに鳩山政権による無責任な県外・国外移設の主張によって混乱させられ、日米関係悪化の象徴的存在となった。しかし、それへの反省からか今でも普天間移設問題が日米間の最大の懸案であるかのように捉えられているのは、いささかピントが外れているのではないか。米側の戦略的事情と財政をめぐる事情が大きく変化してきており、事態は常に動いている。

 政府は、普天間の辺野古への移設に必要な沖縄県の仲井真知事への公有水面埋め立て申請を6月の沖縄県議選の後にすることで、少しでも沖縄県側の態度の硬化を防ぎたい意向だと伝えられているが、ナンセンスな話である。これに対して、日本政府が夏までに埋め立て申請を行わなければ、普天間移設を含む米海兵隊のグアム移転が実現不可能になるのではないかとの懸念が出ている。これは、米議会によって凍結された在沖海兵隊のグアム移転関連予算の再計上をめぐる、米政府と米議会の協議が春から夏にかけて本格化すると見られているためである。

 米議会が昨年、2012会計年度予算からグアム移転費用を全額削除した理由の一つとして、普天間問題が進展していない点を挙げているのは事実である。しかし、米国では現在、財政赤字削減に向けた取り組みが極めて厳しく、国防費も聖域とはされず、十年間で約4870億ドル削減が決まっているのに加えて、民主・共和両党の合意ができず、予算コントロール法の規定に従って強制的削減が発動されるような事態になれば削減額は9500億ドルに上る。米軍のグアム移転の事業費は、米政府監査院(GAO)が昨年6月に上院歳出委員会に提出した報告書によれば、239億ドルに達するとの試算である。これは当然、恰好の削減対象となる。すなわち、必ずしも普天間だけが問題ではないのである。

 もっと重要な点は、戦略上の変化である。オバマ政権は米国の「アジア回帰」を打ち出し、中国への対決姿勢を明確にした。そして、アジア太平洋における米軍の再編については、次の三つの原則によるとしている。すなわち、(1)地理的に配置を分散する、(2)作戦面での弾力性を高める、(3)駐留国等における米軍駐留の政治的な持続可能性に配慮する。昨年11月に発表された豪州のダーウィンへの配備も、この文脈に沿ったものである。米軍のグアム移転は、もともとグアムに米軍の司令部機能を集中させるというものであり、沖縄にある海兵隊の司令部機能はグアムに移転させるとのことであったが、司令部機能を沖縄に残すことに転換している。これは、「アジア回帰」宣言よりも前に打ち出された方針だが、結果として上記の原則に沿った内容となっている。(つづく)
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