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2010-08-03 10:09

(連載)わが国の対露外交に欠けているものは何か(2)

木村 汎   北海道大学名誉教授
 米ロ関係にかんして、もうひとつの事実を指摘したい。メドベージェフ大統領が米国訪問を終え、G8開催地カナダへ向かった3日後の6月28日、米国司法・検察当局はロシア人のスパイ11名をの身柄を拘束したことを公表した。なぜ?どうしてこのタイミングで?このような疑問が世界中を駆け抜けた。

 オバマ大統領の“リセット”外交を快く思わない米国の一部勢力による摘発、とくに発表、と見る者が多かった。だが他方、このように重要な事柄が、およそオバマ大統領の承認を得ることなしに発表されたとは想像しがたい。

 したがって、同大統領本人が指令した可能性すら否定しきれない。同大統領は、ロシアにたいして甘すぎる。あまりにも「ロシア贔屓」である。そのような見方が勢いを増しつつあった。そのことも手伝って、オバマ大統領の人気は下がりつつある。――おそらくこのような傾向を払拭するために、同大統領は米司法・検察当局の行為を押さえる気持にはなりえなかった。ただし、ワシントンでの米ロ首脳会談が終了するまでは、同事件についての発表を差し控えるよう指示するに止めた。このような見方もある。

 今回のスパイ事件には、米ロ間でスパイ交換というあっけない決着を含め、よく判らない点が多い。しかし、私がこの小論で問題にしたいのは、スパイ事件そのものの解明ではない。私がのべたいことは、一言でいうと、それは既に引用したクリントン長官の言葉のなかにある。「歩くこととガムを噛むことが、同時に可能」との一句である。つまり、オバマ政権が対ロシア関係のリセットを基本政策としていることは、必ずしもロシアの行動様式すべてを肯定することではない。ロシアの言動のなかで望ましいものには賛成し、逆に望ましくないものは些かも臆することなく批判を加える。是々非々主義。そのような立場ややり方が、ひいてはロシアのためにもなり、長い眼でみればロシアからも感謝される、というのが米国の対ロ外交のあるべき姿だというわけだ。(つづく)
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