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2009-01-20 08:27

オバマ就任式のけばけばしさは、恥ずべく情けないこと

梨絵サンストロム  ジャーナリスト
 シカゴやニューヨークは1884年以来の寒波に襲われていますが、元日以来カリフォルニアは摂氏22~23度の上天気が続いています。国が大きいと、地域によって大変な相違です。この大きな国にあと30数時間で新しい大統領が就任します。就任式というよりは、むしろオバマ王の戴冠式と言ったほうが適切かもしれません。リンカーン大統領を執念のように崇拝するオバマは、昨日リンカーンを真似て列車でワシントン入りをしました。オバマの念願で、史上に残る権威と豪華さを世界に顕示するためのこの就任式やパーティー、イベントに掛かる費用は、APによると150億円、ABCニュースは総額170億円以上に達する、と報道しました。

 かつてウイルソン大統領は1917年の就任式で、戦時下に派手な祝いごとをするのは尊厳に拘わる、と全ての祝い事をキャンセルしました。ローズベルト大統領は1945年の就任式に短いスピーチをした後、質素なチキンサラダと、ケーキだけで済ませました。現在アメリカ軍がイラクとアフガニスタンで戦う戦時下であり、最悪の状態といわれる不況に直面するアメリカの現状を誰よりも知っているはずのオバマが、質素な就任式で済ませたら、大勢のアメリカ人が彼を心から尊敬したと思います。史上類のない170億円という途方もない費用をかける、このけばけばしいカーニバルのようなお祭り騒ぎは、品性の問題で、恥ずべく情けないことです。

 極左リベラルといわれていながら、選挙に勝ったオバマは、すでに多くの面でセンターよりを示しており、彼のスローガンの「チェンジ」は、選挙時の公約を破って行くチェンジだったのかもしれません。先週、天才オバマは、著名な保守派の評論家ジョージ・ウィル氏の邸宅で、名だたる保守派の政治評論家を9人ほど集め、オフレコの夕食会を開くなど、驚くべき手腕を見せ始めました。そのときのメニューが羊肉(ラム)であったこと、招かれた評論家たちが揃って口を噤み、一切内容を明かさないため、口惜しがったメディアは、かの有名な映画の題名「羊たちの沈黙」をもじって(Silence of the lamb chop)「沈黙のラムチョップ」と囃し立てました。彼の大胆な保守派懐柔策がはたして功を奏したかは、いずれわかることでしょう。

 ひとつ、驚いたことは、マケーンをはじめ選挙中に散々オバマを誹謗した保守派の連中が、一旦オバマの勝利が決定した後は、イデオロギーや政策の相違に拘わらず、「我々はアメリカ人であり、彼が我々の大統領であるからには、オバマの成功を祈り、援助を惜しまない」と言明している事実です。これは最もアメリカらしい現象だと思います。オバマは保守派に対して前例のない歩み寄りを示していますが、「ハネムーン期間は6ヶ月ほどで終わる」と通常言われており、こうした態度がいつまで続くのか、が見ものです。戦争、経済の破綻と、非常時にあるアメリカを導いて行く大統領オバマが、果たして黄金の舌だけでなく、どんな手腕を示すのか、困難な状況下に住む一市民として、彼の成功を祈らずにはいられません。
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