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2026-10-03 18:17

(連載1)F35の機密部品はなぜ香港に行ってしまったのか?

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 オーストラリアから修理や点検のために発送された最新鋭ステルス戦闘機F35の部品(キャノピーや兵器倉ドアなど)が、アメリカ本土の整備施設へ運ばれる途中で誤って香港に回送され、中国側に保管・押収されたと報じられました。まず、なぜ香港に回送されたのかという点についてですが、直接の理由は国際物流における民間委託ルートの運用不備と人為的ミスの可能性が高いとみられています。F35の機体自体はオーストラリア空軍の基地に配備されていますが、高度なレーダー吸収塗料が施された風防や複雑な部品の修理・点検を行える整備拠点は世界でも限られています。そのため、オーストラリアで取り外された不具合部品は、メーカーであるロッキード・マーティン社が契約する民間の国際貨物・物流代理店を経由してアメリカへ送還される手筈になっていました。この国際民間物流のハブ経由の輸送過程で、書類手配のミスや荷物の転送・経由地の指定ミスが発生し、アジア有数の物流拠点である香港へ誤配送されてしまったというのが事態の背景です。次に、オーストラリア国内の中国人住民の多さと本件の関連性についてです。現時点で米豪両国の国防当局や調査機関から、オーストラリア国内の中国系住民や民間人が直接この誤配送を裏で操作したという証拠や報告は出されていません。オーストラリアの国防相も、この件はオーストラリア側の国内手続きや民間委託先での手続きに起因する事故・不備として調査を進めている旨を説明しています。
 
 今回のケースで流出した部品は、操縦席を覆う「キャノピー」や「兵器倉のドア」など、機体表面の形状とレーダー吸収コーティングが施された実物素材そのものです。これらが中国側に押収・保持されると、単なる塗料の模倣にとどまらず、軍事安全保障上の多様なリスクと波及効果が生じます。まず懸念されるのは、実物を用いた詳細なリバースエンジニアリング(逆向分析)による自国技術の底上げです。中国はJ-20やJ-31といった独自のステルス戦闘機を運用・開発していますが、キャノピーの透明性や耐久性を保ちつつレーダー波を反射させない特殊な蒸着・コーティング技術や、内部の金属・複合素材と塗料の接合手法には依然として課題があるとされています。実物のサンプルを手に入れることで、成分分析やナノ構造の解析が可能となり、中国の次世代ステルス機の耐久性やステルス性能が飛躍的に向上する恐れがあります。
 
 次に、アメリカおよび同盟国に対する探知・対抗技術の急速な進化です。実際の素材にどの周波数帯のレーダー波をどれだけ吸収・分散させる効果があるかを物理的に照射して測定することで、中国側はF35の「正確なレーダー反射断面(RCS)」のデータを詳細に特定できます。これにより、中国陸海軍の対空レーダーや地対空ミサイルのシーカー(探知器)のアルゴリズムを更新し、これまで探知が困難だったF35をより遠方で捕捉・追尾できるように改修することが可能になります。さらに見落とせないのが、機体形状と構造データの完全な把握です。兵器倉のドアなどは、高速飛行中に電波を外に逃がさず、かつ気密性や空力性能を維持するための高度な機械構造と複合材料でつくられています。形状の精密な3Dスキャンや材料密度の測定が行われれば、開閉メカニズムの模倣だけでなく、どのような構造的弱点(特定の角度からの波形照射や特定のGがかかった際の歪みなど)があるのかという物理的な脆弱性が特定される危険性があります。
 
 最後にもたらされるのが、外交・軍事インテリジェンス上の優位性と心理戦への利用です。中国は入手した実物部品のデータを直接的な兵器開発に使うだけでなく、アメリカやその同盟国(日本やオーストラリアなどF35を導入している国々)に対して「F35のステルス性能はすでに解析済みである」というシグナルを送ることで、地域の抑止力を揺さぶる交渉カードとして活用できます。また、自国の防衛産業だけでなく、ロシアやイランといった第三国への技術情報供与や取引材料として裏で利用されるリスクも排除できません。(つづく)
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