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2026-10-11 17:02
(連載2)イラン戦争-ホルムズ海峡を巡る戦争
村上 裕康
ITコンサルタント
ホルムズを通過する原油の量は、イラン戦争の前は一日あたり2000万バレルあったが、フジャイラやヤンブーなど代替えルートからの輸送量が800万バレル、南側航路からの輸送量は700万バレルで、日量500万バレルの不足を備蓄から補充するといわれている。米軍による南側航路の確保は、原油輸送を辛うじて支えている。
イランの狙いは、ホルムズ海峡の支配である。海峡を封鎖して、原油価格の値段を高騰させ、米国を屈服させることである。イランは、オマーンの領海にある南側航路を支配しようと、オマーンに海峡の共同管理・通行料の課金を迫って(脅迫して)いる。北航路をペルシャ湾への入航航路、南航路をペルシャ湾からの出航航路とし、海峡全体をオマーンと共同で管理しようという案である。オマーンは海峡の管理(通航届け出・許認可)および通航料の課金に反対であり、鋭く対立している。
7月24日、トランプ大統領は13日間の連続爆撃の中止を指示した。国防総省の関係者から、兵器の備蓄の減少を懸念する声も漏れ伝わってきた。これ以上続けても軍事的な効果は限定的であるとの声も上がった。米軍の身内からもミサイルの備蓄の減少を懸念する声が漏れ伝わってきた。2月末に米軍がイランを攻撃してから、やがて半年以上が経過した。6月17日に締結された暫定合意覚書(MOU)は、暫定期間の60日が経過して8月16日に期限がきた。米国の手詰まり感は明らかである。
イランは防御的対応から攻撃的対応に転じて、軍事・外交で攻勢をかけてきた。最高指導者モジタバ・ハメネイは、IRGC幹部の人事を主戦論者の超強硬派で固め、最高安全保障委員会のトップにモフサン・レザイ氏を据えた。イランは米国に対して降伏を求め「和平・海峡開放への6条件」を突きつけてきた。この中で、賠償金の支払い、海上封鎖の解除、凍結資産の開放、経済制裁の解除、米軍の中東地域からの撤退を要求した。また、イランによるホルムズ海峡の支配権を主張して、海峡を通航する船舶にイランの承認(通航許可権、通航料徴収)を求めた。
米国の戦略は、軍事攻撃から経済的圧力を強める方向へとシフトした。米軍はホルムズ海峡の安全を確保(南航路の原油輸送)して、原油価格の高騰を抑え、ホルムズ海峡の海上封鎖をした。海上封鎖でイランの港に出入りする船舶はブロックされ、イランから輸出される原油は遮断された。イランは原油の輸出による収入の大半が無くなり、一日あたり2億5千万ドルの収入が失われるという。
8月24日、米国はベッセント財務長官を通じて「金融封鎖作戦(エコノミック・アウトキャスト作戦)」を発動した。「金融封鎖作戦」の狙いは、イランが海外の企業と取引を出来なくすることで、イラン経済を世界経済から孤立させることにある。また、イランと取引のある海外の企業に対して「ブラックリストに載せてドル決済網から排除するぞ」と警告して、イランとの取引から手を引かせた。
この「金融封鎖作戦」にいち早く反応したのが、UAEである。UAEはイランが海外の企業と取引を仲介する拠点として機能してきた。国際社会からの経済制裁で、イランは海外企業との取引が制限されてきたが、その抜け穴として第3国を経由する地下経済網を作って凌いできたのである。この地下経済網を潰すことが「金融封鎖作戦」の目的でもある。「金融封鎖作戦」を受けて、UAEはイランとのあらゆる貿易取引や金融取引を停止した。石油の闇取引、武器弾薬の取引、密輸、麻薬取引、マネーロンダリング、両替など、イランの地下経済網は封じられた。闇取引で石油を輸入する中国に対して、米国は取引の停止を要求した。また、イランとの闇金融に関与しているとしてエジプトのミスル銀行UAE支店を制裁対象に指定した。
米国による「海上封鎖」はイランの石油輸出を遮断し、「金融封鎖作戦」は海外との資金移動を遮断した。イランの通貨は1ドル=250万リアルまで暴落した。物価は高騰し、消費者物価指数(前年同月比)は直近の統計で90%に達している。特に基本的な食料品の価格が2倍~3倍と上がっている。一方、多くの企業が閉鎖に追い込まれ、雇用が失われるとともに、基幹産業においてさえ、数か月の給与支払いの遅延は常態化している。
イランではガソリンの不足が深刻化している。米・イスラエルによる攻撃でイランの製油所が破壊されたうえ、経済制裁で燃料の輸入が困難になっている。米軍の海上封鎖で南部から石油を輸送する経路は断たれ、またロシアからカスピ海を通って輸送する北部経路も遮られている。ガソリン不足で各地の給油所に長蛇の列ができている。ガソリンの不足量は一日あたり1400万~1500万リットルになる。政府は配給制限、ガソリン価格の値上げでガソリン消費を抑えようとするが、ガソリンやディーゼルの不足は市民生活の混乱を招いている。
イラン全国で国民の抗議デモが頻発している。政府はインターネットを切断し、通信を遮断して抗議デモが広がらないようにしている。政府は抗議デモが動乱に発展することを警戒している。治安部隊を繰り出し、抗議の声をあげる人々を逮捕し、弾圧している。2019年の動乱はガソリン価格の引き上げが引き金になった。2022年の動乱はヒジャブ着用に抗議する女性が連行され急死したことに端を発する。2025年末の動乱はハイパーインフレに対する反政府デモが引き金になった。
米国による「海上封鎖」で石油輸出による収入は断たれ、「金融封鎖」でIRGCの闇金融による資金源は断たれ、国民の生活苦に対する不満は増大して社会不安が高まっている。9月下旬、ニューヨークにおける国連総会の会期中、イランは米国に対して「条件を満たせば7日以内にホルムズ海峡を開放する」という提案を示した。トランプ大統領はイランの提案を「受け入れられない」として拒否した。「イランは経済的に追い詰められ、ひどく劣勢に立っている」として拒否する理由を明かした。
ホルムズ海峡を巡って、IRGCは「海峡内の未承認航路を遮断して、海峡封鎖を強化する」という方針を示した。米国のルビオ国務長官はIRGCの発言に対して「石油輸送量は回復しており、イランは支配権を失った」と反発した。また「戦闘終結にはイランの非核化の保障が不可欠」と強調した。イランのいう未承認航路とは、オマーンの領海にある南航路を指している。IRGCが南航路を通航する商船を攻撃の対象にすることは、オマーンの主権侵害である。
米国から軍事的、経済的圧力が加えられ、国内では経済的に疲弊した市民による抗議運動が頻発する。軍事的・経済的に追い込まれる中で、イランの指導部は分裂している。神権政治と共和制が併存するイランのイスラム革命体制において、神権政治をバックに政治・経済・軍事で実権を握るIRGCと、ペゼシュキアン大統領を中心とする(選挙で選ばれた)文民政府は対立する。米国との和平交渉を担ってきたのは穏健派のペゼシュキアン氏らである。米国と交渉することすら拒否する強硬派のIRGCは、イランの通貨が暴落して社会不安が増大しているのはペゼシュキアン氏らの責任であると糾弾する。
トランプ大統領は国連総会での演説で「中間選挙(11月3日)後に和平合意に達するだろう」としながら「合意に至らなければ、イランを壊滅させる」と強い言葉で警告した。中間選挙の前後に空母「セオドア・ルーズベルト」は中東に到着の予定であり、既に現地に展開している空母「ジョージ・ブッシュ」と「ジョージ・ワシントン」と合流する見込みである。セオドア・ルーズベルトの派遣は緊迫するイラン情勢への圧力および抑止力を強めるための米軍の増派措置の一環である。
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