はじめに
日本の安全保障関連文書において、核の脅威に対抗する手段として米国の拡大核抑止が「不可欠」であると位置付けられるようになって久しい。とりわけ、中国や北朝鮮による核戦力の量的・質的拡大が進展し、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面しているとされる今日、米国による拡大核抑止の重要性は政策論議において一層強調されている。
しかし近年、高度な通常戦力が核抑止への依存を低減し得る可能性について、欧米の戦略研究の分野で新たな議論が展開されている。例えば、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の報告書『Reducing Global Reliance on Nuclear Deterrence』は、新興技術を活用した通常戦力が核抑止を一定程度代替し得る可能性を論じている。
従来の戦略研究では、核抑止は通常兵器による抑止とは質的に異なる独自の概念として理解されてきた。他方、近年の議論は、核抑止の諸機能を分解して検討することで、その一部については通常戦力による代替や補完が可能ではないかという問題提起を行っている。