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2026-04-27 10:31
(連載2)英国王チャールズ3世、「トランプのアメリカ」を建国250周年の国賓訪問:その裏にある地政学と価値観
河村 英太崚
外交評論家
3.【アメリカと世界秩序の混乱】
さらにアメリカの外交政策について触れておきたい。イラン戦争が差し迫っていなかった昨年6月に、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は、トランプ氏が州兵とICEを民主党支持州に派遣したことは憲法違反で、米軍を私物化してしまったと評している。またトランプ氏はネタニヤフ首相と民族宗教的ナショナリズムの共有から同調しているが、これは建国の父たちの普遍的な自由主義的価値観と完全に相容れない。ケーガン氏が主張するように、ピート・ヘグセス国防長官は米軍内でDEI(多様性、公平性、包摂性)に反対する取り組みを進め、イラン戦争を十字軍に擬えているが、そのどちらも白人キリスト教ナショナリズムに深く根ざしている。したがって、ケーガン氏はトランプ大統領がイランでどのような成功を収めたとしても、それは世界中の独裁政権の勝利に過ぎないと結論付けている。トランプ大統領とアメリカの同盟国との間の絶え間ない摩擦は、中国とロシアを喜ばせている。さらに、アメリカはイラン戦争で同盟国からの信頼を失った。これは地政学におけるアメリカの孤立を加速させるだけでなく、啓蒙主義の崩壊をも招き、アメリカ自身を含めた世界全体の安全保障を脅かすことになるだろうと。
私の目にはバラク・オバマ元大統領もまた過度にポストアメリカ的であったように映るが、彼の外交政策ならカナダのマーク・カーニー首相が提唱したミドル・パワー同盟という世界秩序とも整合し得たとも言えよう。一方でトランプは極度にポスト啓蒙主義的で、アメリカを完全に孤立させてしまった。これは世界を本当に石器時代に逆戻りさせるほど野蛮な行為である。ケーガン氏は『アトランティック・ジャーナル』誌の最新投稿で、「トランプのアメリカ」を「ならず者超大国」と呼んでいる。彼は現在進行中の戦争に言及し、「イラン戦争は『アメリカ・ファースト』型のグローバル介入だ。議会での公開討論も採決もなく、イスラエル以外の同盟国とは協力どころか、多くの場合は協議すら行われず、地域や世界への潜在的な影響についても全く考慮されていないようだ」と述べている。これはアメリカを孤立させ、危険な存在にするが、決して偉大な国にはしないと。 それによってトランプ氏は、アメリカとその同盟国に数えきれないほどの利益をもたらしてきた世界秩序を破壊することになる。
4.【ポスト啓蒙化の動向と文明体国家の台頭】
最後の論点はグローバルな文脈における政治変動である。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのアーロン・マッキール氏は、西側諸国における右翼ポピュリズムの急速な拡大や権威主義国家による地政学的な挑戦に見られるようなポスト啓蒙主義の時代には、文明体国家の価値観がリベラルでコスモポリタンな理念に取って代わるだろうと述べている。では文明体国家(civilizational state)とは何だろうか?それは、大国または地域大国が自国の領土を超えた統治主体として主張する、一種の民族文化的な勢力圏である。これはロシアの「ルースキー・ミール」や中国の「中華民族の偉大な復興」に典型的に見られる。国内においては、文明体国家は自民族中心的な伝統主義を通して国民の統一を重視する。トランプ氏は、白人キリスト教ナショナリズムによって、普遍的でコスモポリタンな理念により覇権国家アメリカの優位性を放棄し、ロシアや中国のような権威主義的な文明国家へと変貌させた。マッキール氏によれば、そうした文明体国家論の提唱者たちは、必ずしも懐古志向というわけではない。彼らはしばしば、テック業界における大国間の競争に勝利することに熱心な新テクノ未来主義者と結び付く。これは、現在の英米関係ではTPDに典型的に見られる。
【結論】
嘆かわしいことに、アメリカは建国250周年祝賀 にあたり最も不適格な大統領を選出した。チャールズ国王がアメリカの民主主義に意義ある、この歴史的記念行事で訪米するにもかかわらずだ。スターマー氏の外交姿勢の変化は、トランプ氏との衝突を避けるためだけに媚び諂っても無駄であることを示している。親トランプのジョルジア・メローニ首相でさえ、米空軍がイタリアの空軍基地を使用することを認めよというトランプ氏の要求を拒否した。国内政治において、トランプ氏は忠誠派であっても多くの人物を罷免した。彼への追従の見返りは期待できない。G7首脳の中では、日本の高市早苗首相がトランプ氏に迎合しようと躍起になっている。彼女のクレージー・ダンスは、東京とワシントンでの二国間会談で嘲笑された。しかし私が注目すべきと呼びかけたい所業は、ジョー・バイデン前大統領のオートペン肖像画を見て無礼にも笑ったことである。これは彼女が政治的なバランス感覚を失っていることを示唆している。高市氏は最早みっともないほどトランプ氏に魅了されているので、自身を「MAGA市」と改名すべきだろう。
去る3月にユーガヴが行なった世論調査によるとイギリス国民の間では今回の訪米は不評で、国王に訪問を中止するよう求めている。トランプ政権の性質と彼の性格を考えると、今回の国賓訪問でさえ国家間の関係改善には繋がらないだろう。したがって、チャールズ国王がトランプ氏の功績を認めるような印象を与える必要はない。一方、イギリスの王室外交は1世紀以上にわたり米国との友好関係を育んできた。トランプ氏ではなく市民に目を向ければ、建国250周年記念の国王訪問は米国民が建国の父たちの理想を思い起こす機会となるだろう。イギリス王室は歴史的にアメリカ人の間で人気が高い。
「トランプのアメリカ」は新テクノ未来主義をも抱合する文明体国家であるため、たとえトランプ氏がイギリスとの関係悪化に伴いスターマー氏への非難を強めているとしても、TPDのような大型ビジネス取引は二国間関係の決定的な破綻を阻止するための「人質」となるだろう。いかに彼がマッドマン外交を好むとはいえ、このテック合意の撤回を示唆することは全くなかった。これは、「トランプのアメリカ」との関係を媚びへつらうことで安定させようとする世界の指導者たちにとって、教訓となるだろう。
トランプ氏が国内外に混乱をもたらそうとも、この歴史的行事においてチャールズ3世はアメリカの民主主義と大西洋横断関係に好ましい影響を与えられるのだろうか?国王はアメリカ合衆国への国賓訪問に先立ち、故女王エリザベス2世の「善は必ず勝利し、明るい夜明けは常に地表から遠からぬ所にある」という困難にも希望を失わぬための遺訓を語った。(おわり)
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(連載1)英国王チャールズ3世、「トランプのアメリカ」を建国250周年の国賓訪問:その裏にある地政学と価値観
河村 英太崚 2026-04-26 17:13
(連載2)英国王チャールズ3世、「トランプのアメリカ」を建国250周年の国賓訪問:その裏にある地政学と価値観
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