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2025-05-14 19:48

(連載2)「トランプの世界」での「日欧同盟」について、生成AIはどのように答えるか?

河村 洋 外交評論家
 【質問3】: 問題は地政学に留まらない。トランプ政権下のアメリカにおける民主主義の衰退は、『プロジェクト・シンディケート』誌に掲載されたクリス・パッテン氏の最近の記事でも指摘されているように致命的な問題である。彼は親EU派のヘーゼルタイン氏とは対照的に親米派のサッチャー元首相と非常に近かったものの、MAGAに乗っ取られたアメリカから英国がより主権と自立性を持つべきだと主張している。彼は政治家としてのキャリアを通じて、ヨーロッパとアジアの両方を理解している。こうした状況を踏まえ、アメリカが自由の理想と人道主義を後退させている中で、日欧同盟はどのようにして価値観に基づいた外交を主導できるのだろうか?
 
 質問でも述べたように、イギリスのクリス・パッテン上院議員は熱心な大西洋主義者であり、レーガン・サッチャー時代の世界秩序の寵児であった。また香港の最後の総督、そして元欧州委員会対外関係委員として、アジアとヨーロッパの両方に通じたイギリスの国益代表者であった。こうした経歴からパッテン氏は『プロジェクト・シンディケート』誌2月28日付けの寄稿で、「トランプ政権下のアメリカは1月6日暴動に見られるようにもはや自由の価値観の担い手ではないため、イギリスはアメリカとの数十年にわたる特別な関係を格下げすべきだ」と主張する。オックスフォード大学前総長としてパッテン氏はウィンストン・チャーチル以来の英米同盟の歴史を学術的に振り返り、トランプ氏が共通の価値観という根本的な前提を破壊したと主張する。そのため、パッテン氏は、キア・スターマー首相に対し、イギリスはトランプ氏の要求にすべて屈服すべきではないと強く訴えている。実に驚くべきことに、スターマー氏はトランプ政権下のアメリカとの有利な貿易協定と引き換えにヘイトスピーチ法を撤廃しようとしている。労働党がMAGA政策を採用するとは、なんともひどい追従である!さらに、トランプ氏の歴史と地政学に関する知識の欠如は、彼の大国重視の外交に如事実に表れている。パッテン氏が言うように、二度の世界大戦はセルビア、チェコスロバキア、ポーランドといった小国から始まったのだ。
 
 現在のアメリカの混乱した統治と現大統領の国際情勢に対する理解不足を考えると、日欧同盟は価値観重視の外交におけるアメリカのリーダーシップの欠如を補完できるであろう。Grokの回答を振り返ってみたい。民主主義、法の支配、人権といった共通の価値観に加え、双方とも災害救援や環境といった人道問題にも取り組んでいる。ルールに基づく世界秩序を尊重する両国は、トランプ氏が「ディール外交」の名の下に小国を搾取するやり方に反対するようになる。これは世界の安全保障環境を権威主義体制に有利なものにしているが、トランプ氏は気にしていない。パッテン氏は香港の民主的統治をめぐる中国との交渉経験から、権威主義体制との衝動的な妥協の危険性を学んだ。もしトランプ氏が本当にウクライナと台湾を放棄するのであれば、日欧同盟がその空白を埋め、パッテン氏が構想する民主連盟再編の実現を後押しすることもあろう。しかしヨーロッパも日本も、単に道徳的な優位性という理由だけで現在のアメリカ中心の同盟を民主的なミドルパワー同盟に置き換えることはできないことを忘れてはならない。それはトランプ大統領の存在にもかかわらずアメリカはあまりにも大きく強大であり、地理的な遠隔性はヨーロッパと日本の戦略的優先事項を分断し得るからである。
 
 最後に今日の世界秩序における最も重要な問題は、トランプ関税である。日欧同盟は、トランプ政権下の米国との貿易戦争にどのように対処すべきか?私は最近、以下のような質問をしてみた。
 
【質問4】:貿易交渉は世界経済体制だけでなく、地政学の問題でもある。より多国間のアプローチが望ましくはあるが、トランプ氏のアメリカ・ファーストに基づく貿易政策に多国間の連携で対抗するよりも、米現政権との交渉を優先している国も見受けられる。その中で経済大国2ヶ国について問いたい。
(1) 日本はトランプ政権との早期合意を望んでいるようだが、それが性急過ぎると他国の貿易交渉に悪影響を及ぼしてしまうのではないか?石破政権はあまりにジャパン・ファーストになっていないか?
(2) イギリスは関税引き下げと引き換えに、ヘイトスピーチ法の廃止を提示した。もし労働党政権がMAGAの主張を容易に受け入れれば、保守党はさらに右傾化し、イギリスの内政でイデオロギー的なsurenchère(競り上げ)現象が加速しかねない。それによってイーロン・マスク氏のMEGA(ヨーロッパを再び偉大にする)構想がヨーロッパで右派ポピュリズムを刺激し、最終的にはNATOとEUの分裂にもなりかねないのか?
 
 日本に関してGrokは悪い前例となるリスクを認めつつも、石破政権はFOIP参加国やNATOと緊密に政策連携しており、それほどジャパン・ファーストではないと指摘する。石破茂首相は先のベトナムとフィリピン訪問の際に、貿易戦争におけるアメリカとASEAN諸国の仲介役としての日本の役割を強調しているので、この反論には一理ある。それでも日本が性急な合意を急ぐことで、世界貿易秩序が崩壊する懸念もある。トランプのアメリカとの貿易協議において、石破政権高官はほぼ日本の国益についてのみ言及している。リベラル世界秩序の熱心な支持者で徹頭徹尾の反トランプ派である私のような者にとっては、それはいかにもジャパン・ファーストに聞こえてしまう。
 
 イギリスに関してGrokは「スターマー氏がMAGAに譲歩すれば保守右派、ひいては改革党が勢いづくのではないか」という私の懸念を認めている。さらに、MAGAの政治文化が浸透すれば、ヨーロッパ全土で反EUまたは反NATO感情が高まり、イーロン・マスク氏のMEGA扇動を助長することになるだろう。Grokは、私の以前の質問に記した「アメリカの民主主義の後退は非リベラルなヨーロッパの周辺勢力を力づけ、労働党の譲歩はその流れに油を注ぐ可能性がある」というパッテン氏の警告についても、返答の中で言及している。親EU派のスターマー氏は慎重な行動を取りつつも、トランプ政権に対抗するためにEUとの新たな貿易・安全保障パートナーシップも模索していると。
 
 これに先立ちゴードン・ブラウン元英首相は『ガーディアン』紙4月10日付けの論説で「2008年の金融危機の際に国際社会が行なったように、世界的な景気後退とインフレを克服するためのマクロ経済政策と金融政策における各国間の協調を」と呼びかけていた。それに続く4月12日付けの論説では「法の支配の再構築による新たな世界秩序に向けた集団的イニシアチブには、新興国をも抱合せよ」と提唱している。私が言及している日欧同盟はトランプのアメリカ、プーチンのロシア、習近平の中国によるシャープパワーの取引主義に対し、こうした国々の意見に耳を傾けてルールに基づく多国間主義を再構築することができる。この目標達成のために、ブラウン氏はイギリスに対し安全保障と経済の分野でEUとの戦略的パートナーシップを再構築してブレグジット後のショックを乗り越えるよう促している。
 
 生成AIは思考をまとめ、時には見落としていた点に気づくうえで非常に役立つ。特に不確実性が増す世界において、日欧同盟のような複雑な問題を探求する際にはなおさらである。また教師がAIの思考に慣れておくことは、学生がレポートやエッセイを提出する際にAIによる不正行為を検知する上でも役立つ。最後に、イーロン・マスク氏がDOGEでの世界を騒然とさせる仕事でAIを活用していることに注目すべきである。このアプリケーションに精通することは、彼の奇妙な思考方法を理解する上で役立つであろう。結局のところ、AIは問題を解決する万能薬ではない。AIの答えは、各人の質問の質に依存する。また、様々なAIが次々と登場し進化しており、それぞれに長所と短所がある。トランプ政権下における日欧同盟の問題を議論する際には、この点を念頭に置かねばならない。この問題についてもっと模索するにはAIに対してより多く、そしてより深い質問してゆく必要がある。(おわり)
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(連載1)「トランプの世界」での「日欧同盟」について、生成AIはどのように答えるか? 河村 洋 2025-05-13 00:53
(連載2)「トランプの世界」での「日欧同盟」について、生成AIはどのように答えるか? 河村 洋 2025-05-14 19:48
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