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2022-12-15 20:54
農業集落調査廃止という「問題」
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「農林水産省は農村を見捨てるのか。農水省が5年に1度実施している統計調査の一つ『農業集落調査』の廃止を打ち出したことに、研究者らが強く反発している。同省は代替案を示したものの、意見対立は収まらない。取材を進めると、今後の研究や政策づくりへの支障を危惧する研究者と、手間のかかる調査の継続に後ろ向きな農水省の隔たりが見えてきた」(2022/12/01 毎日新聞社)。
「蓑着て笠着て鍬持って/お百姓さんご苦労さん/今年も豊年満作で/お米が沢山取れるよう/朝から晩まで お働き」
武内俊子作詞「お百姓さんの歌」だ。戦中、ニッポンは働き手を戦場に取られ、その戦後には少なからざる農民が「軍神」になって帰国した。働き手の中心は老人と女手に任されたが力不足は如何ともしがたく農地は荒れ収穫は辛うじて生き残った人々を食わせることにすら足りなかった。そういう状況に農民を鼓舞するための応援歌が上の童謡であった。
お百姓さんの存在がどれほど大切であったか、そして農民が住む農村こそ戦禍で傷ついた国土の再生の源泉であったから、上記「農業集落調査」は当時の生命線でもあったのだろう。そして今やすっかり人口は減り、高齢化のままに衰退した「農村」は都会政府である霞が関官僚たちからすれば調査に値しないと考えているのであろう。
「蓑着て笠着て鍬持って/お百姓さんご苦労さん/お米もお芋も大根も/日本国中余るほど/芽を出せ実れとお働き」
ここで問題になっている農業集落調査とは、どういったものなのか。「農水省は全農林業者を対象に、5年に1度『農林業センサス』という調査を実施している。農業集落調査はその一部だ。対象は全国に約15万ある集落のうち約14万集落。1955年の調査開始以降、農地や用排水路、ため池といった地域資源の保全活動の実態調査に加え、各集落で開かれた『寄り合い』の頻度やその議題までをつぶさに調べてきた」(同上)。
文字通りこれは社会学全般にわたる学術調査である。軽佻浮薄の時代の気分に流されてやってもやらなくてもどうってことは無いという類のものではない。
だが、敵基地攻撃能力確保の為に一銭でも多くのお金が必要なこの時代に、ひたすら衰微していく農村の「社会学」などどうでも良いと霞が関では思っているということらしい。再びあの戦後の空腹を抱えておろおろ歩いたと同じような時代が来たその時までこの調査はおあずけになるのであろう。
「お百姓さんの歌」の三番は、
「蓑着て笠着て鍬持って/お百姓さんご苦労さん/貴方の作った米食べて/日本の子供は力持ち/誰にも負けない力持ち」・・・と期待したいところだが、この歌が唄われた時代の日本では、年240万人の子供が生まれたが、今やその3割ほどに減少し、農村では子供の声が聞こえない。食糧自給率はたったの38%だ。
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