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2022-08-26 18:55

(連載2)原発を拠点に使うロシアの懐具合

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 軍人はひとたび命令があれば戦死することを覚悟して前線に赴くことを誓約して就く職業であるから、もちろん死んでよい命などはないとは言うものの侵略戦争などにおいては死んでも仕方がないと解釈される。一方「軍事関係者」という中には「非戦闘員」が含まれる。ウクライナの場合は、これに加えて自国の領土内で戦闘行為が発生しているため、生活者である民間人に死者がでるのは想像がつこう。しかし、ロシア側にはウクライナ領に進出する民間人がいるはずがないという無意識の決めつけがないだろうか。
 
 戦争にあっては、よく考えれば当然のことであるが動員されるのは兵員だけではない。当然に「軍医」という制度もあるし、機械の整備(兵器ばかりとは限らない)や事務、通訳、建設、開発など多種多様な業務に携わる人々がいる。この中で、軍に所属している民間人、例えば軍医や看護師、または整備士など、軍の行動に必要だが戦闘をしない人々のことを「軍属」といい、それ以外を「従軍民間人」という。これらもすべて含めて「軍隊」を構成していることになる。
 
 さて、「兵員」というのは、軍人だけであるから、これらの軍属や従軍民間人は含まれない。よくイギリスやアメリカの情報部発表の数字で、「ロシアの兵員の犠牲者は4万人程度」などと数字を出しているが、実際には、それは「軍人」であって、軍属などの民間人の数が入っていない。そこで様々な情報を得て、この数字を出してみると、どうも8万人~10万人が「死亡」または「負傷(重傷により活動不能)」または「逃亡」となっている。特に、補給物資を運ぶ輸送要員、または戦車やトラックの機械整備士がかなりやられているようである。ロシアでは、軍人の充足だけではなく、これらの軍属の確保もできない状況になっており、軍医や従軍看護師も不足している。そのため、中国や中央アジアより移民を受け入れている。もともとは軍属のみを受け入れるという予定であったが、それでは入ってこなかったり、十分な質や意欲のある人材でなかったりするので、家族ごと受け入れて、その家族を人質に取って動かすという状況になっているという。
 
 近時、ロシア軍がウクライナ領内の原発に拠点を展開し攻撃に利用している問題は、このような人的リソースの枯渇が原因にある。「相手から攻撃されない場所からの攻撃」ならば、戦闘によって損耗しないという発想である。しかし、このような原子力発電所管区内における攻撃拠点使用は、万が一原発が破壊されると軍属も従軍民間人もすべて「被爆」することになり、一発で数千人規模、一個大隊規模の戦闘不能を作り出すことになりかねない。また、ウクライナ軍による攻撃だけではなく、ロシア軍による「事故」でも同様の被害につながってしまうことになる。それでもこのようなところから攻撃しなければならない事情は何か。そのことはまた別途解説をすることにしたい。(おわり)
 
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(連載1)原発を拠点に使うロシアの懐具合 宇田川 敬介 2022-08-25 20:55
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