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2022-05-12 11:48
(連載1)エマニュエル・トッド氏のロシア観に異論
河村 洋
外交評論家
フランスの高名な歴史学者、エマニュエル・トッド氏が5月6日放映のNHK『ニュース・ウォッチ9』のインタビューで、ウクライナで現在進行中の戦争とそれがロシアに与える影響について応えた。トッド氏がインタビューで答えたいくつかの要点の内で私が聞いて違和感を覚えたことは、ロシアはもはや欧米にとって深刻な脅威でなくなったが、それはこの戦争で呆れるばかりのロシア軍の弱体ぶりが露呈したからだという見解である。
軍事的に弱いからといって、該当のアクターが国家であれ非国家であれ、それがもたらす脅威が無視できるとまでは必ずしも言えない。典型的な例では、イスラム・テロリストは実際の軍事力という観点からはあまりに弱小だが、彼らが欧米に対して抱く憎悪と怨念を考慮すれば、そうした脅威が国際社会に及ぼす影響は恐るべく巨大なものである。実際に、そのような憎悪と怨念が9・11同時多発テロを引き起こしたのである。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も同様に、ウクライナでの「特別軍事作戦」の開始に当たって西側に対する悪意と憎悪に満ちた情念に突き動かされている。ロシアが深刻な脅威でないなら、スウェーデンとフィンランドがNATO加盟を申請する理由がない。
ロシアの脅威が重大な理由には、以下の観点が挙げられる。第一にロシア軍が非戦闘員も含めた敵国に対する敵対性と残虐性は国際社会を震撼させたが、それは彼らが戦場で見せた規律に欠けてプロとは呼べない行為と相互関連がある。彼らが戦争に付随して行なった殺戮、拷問、強奪、そしてレイプは、戦闘におけるロジステック、コミュニケーション、訓練、指揮命令系統、そして戦術の不手際と表裏一体である。すなわち、ロシア軍は今世紀においてあまりに野蛮で、近代化も不充分である。メディアではしばしば、ロシアの行動と戦略は第二次世界大戦のスタイルだと語られている。(つづく)
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