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2021-06-02 00:04
(連載2)アジア人差別と日本人の国際問題意識
河村 洋
外交評論家
実際にプーチン氏は人種にもイデオロギーにも拘泥はしない。欧米では極右を支援しながら対米地政学の観点からラテン・アメリカではキューバやベネズエラ、中東ではバース党政権下のシリアといった社会主義国を支援している。また、イギリスのEU離脱投票では極右支援の投票介入を行ないながら、スコットランドの独立をめぐっては左翼を支援している。ここで銘記すべきことは、旧ソ連自体が世界の共産主義の指導的役割を自任しながらリベラル民主主義の弱体化のために欧米の極右も支援していたということである。プーチン氏はそうした政治工作で重要な役割を担った旧KGB出身である。
これに対しドナルド・トランプ前米大統領は国内政治に於いて世論の分断を煽って自分の岩盤支持層を高揚させるために、レイシズムを利用した。2016年の大統領選挙ではメキシコ人をはじめ、移民への差別感情を顕わにした。大統領就任後もシャーロッツビル暴動で白人至上主義者による暴力行為を非難しなかった。それどころか2020年大統領選挙の討論会ではレイシスト団体プラウド・ボーイズへの暴動扇動と受け取られかねない発言をし、司会を務めた保守系FOXニュースのクリス・ウォラス氏をも驚愕させた。さらに大統領退任を前にした1・6暴動への教唆はあまりに悪質だったので、ツイッター社はトランプ氏のアカウントを停止したほどである。ナイジェル・ファラージ氏がブレグジット運動を主導したUKIP(英国独立党)は後にレイシスト化、特に反イスラム化を強め、やがてはファラージ氏自身が離党するほどになった。国民の分断を煽る反グローバル主義の右翼政党の支持層とは、このようなものだ。
上記のような欧米極右の動向からすれば、コロナ禍がなくてもアジア人差別の爆発は必然的であった。非常に奇妙なことに、いわゆる「和製トランプ支持者」達はアジア人への攻撃は白人よりもむしろ黒人からなされていると言い張る。だがこれは社会的分断による人種間の憎悪感情激化が原因なので、彼らの主張には全く意味がない。
日本人全体の傾向として、欧州大西洋圏についてブレグジットの経済的影響などビジネスに関する事柄には敏感だが、本題のように文化や宗教に安全保障問題まで複雑に絡み合った問題にはそこまでの関心を向けていない。いずれにせよアジア人差別の問題では、目先の事象に対する不安感から被害者意識で物事を考えてはならない。それでは白人労働者階級を中心とした、極右に魅せられた人達と同等の思考様式に陥ってしまうだろう。(おわり)
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(連載1)アジア人差別と日本人の国際問題意識
河村 洋 2021-06-01 23:26
(連載2)アジア人差別と日本人の国際問題意識
河村 洋 2021-06-02 00:04
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