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2020-01-29 16:15
(連載2)「ヒキワケ」――柳の下に2匹のドジョウはいない
袴田 茂樹
JFIR評議員
私は2012年3月に、ロシア首相府サイトで公表されたプーチンと若宮のやり取りを読んで、日本メディアが削除した部分にプーチンの本音があることをすぐ見抜いた。それは、当時のベールイ駐日ロシア大使も、ロシア外務省の日本担当のガルージン局長(現駐日ロシア大使)も、私の質問に対して事実上それを認めた。しかしわが国ではその後、プーチンは北方領土問題で「妥協と引き分け」を目指している柔軟な大統領という楽観論が定着した。そして、2012年末に成立した第2次安倍政権も、平和条約問題でこのプーチンに賭けた。ただ、日本政府は長年一貫して「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という東京宣言の日露合意を対露交渉の基本方針としてきた。東京宣言が平和条約交渉の基礎となる合意であるということは、プーチンも認めていた。そのことを明記しているイルクーツク声明(2001)、日露行動計画(2003)に彼は大統領として署名しているからだ。
しかし、2005年9月にプーチンは国営テレビで「第2次大戦の結果南クリル(北方4島)は露領となり、国際法的にも認められている。このことについて日本と議論するつもりはない」と述べて、歴史を完全に修正した。ラブロフ外相が近年「第2次大戦の結果論」あるいは日露間の「領土問題不在」論を強調するのは、プーチンのこの歴史修正を忠実に鸚鵡返ししているにすぎない。プーチンの「妥協とヒキワケ」であるが、ロシア側はこれと同義語として「両国に受け入れ可能の解決」との言い方をする。
一見「けんか両成敗」で中立的と見えるが、領土の不法占領に対する解決法としては、両国の世論が受け入れる解決というものは有り得ない。したがって長年日本政府も、「両国に受け入れ可能」という概念を認めてこなかった。しかし約十数年か20年ほど前だったろうか、日本政府がこれを初めて受け入れた時、ロシア政府関係者が私に「これでロシアが勝った」と述べたのをはっきり覚えている。茂木外相とラブロフ外相がこの12月19日に外相会談を行い、ラブロフ外相は会談後の記者声明で、平和条約の解決法は「ロシアと日本の国民や議会に支持され受け入れられるものでなくてはならない」と述べた。すなわち「両国に受け入れ可能」という意味だ。その時彼は同時に、「第2次大戦の結果」(4島はロシア領)論も主張しており、ロシア国内ではこの論が一般化している。
ロシアと中国が2004年に領土問題を最終的に解決した時は、解決法について両国共に国民世論にも議会や党大会にも一切諮らなかった。そのような解決法は有り得ないことを両国指導部が明確に理解していたからだ。中露間の領土画定で最後に残った大ウスリー島の折半という解決法については、ハバロフスク地方知事も極東のロシア住民も強い不満を抱いていたのを私は知っている。それに比べ、日本に対してはプーチンは再び「ヒキワケ」と述べて、柳の下の泥鰌を狙っている。つまり領土返還なしの平和条約締結であり、そのための経済協力、その他の分野の協力の推進である。日本側としては、柳の下に2匹目の泥鰌はいないと、はっきり知らしめるべきである。(おわり)
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(連載1)「ヒキワケ」――柳の下に2匹のドジョウはいない
袴田 茂樹 2020-01-28 13:34
(連載2)「ヒキワケ」――柳の下に2匹のドジョウはいない
袴田 茂樹 2020-01-29 16:15
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