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2017-11-03 18:58
(連載1)「脱炭素社会」構築に向けた提言
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)締結国第23回会合(COP23)がドイツ政府の支援を受けて、ドイツのボンで今月6日から17日まで開催される。議長国のフィジー代表の言葉を借りれば、本会合は各加盟国によるパリ条約の実施状況についての報告と情報交換だけでなく、今後各国が「強靭で持続可能な世界の構築に向けて、如何なる時代変革的な気候変動対策をとるか」の決意を表明かつ検討する場でもある。国際社会は、2015年COP21で採択したパリ協定に基づき昨年のCOP22で「マラケシュ宣言」を採択し、脱炭素社会構築に向けて21世紀後半までに各国が採るべき自発的貢献(NDC)の上積を訴えた。加盟各国は2030年までのNDCを発表したが、国連環境計画(UNEP)は、COP23を目前に控えて公表したGAP2017報告書で、UNFCCC事務局へ提出されたNDC全部合わせても、2000年末までに産業革命以降の大気温度の上昇を摂氏2度(できれば1.5度)以下に抑えるという目標達成に必要な温室効果ガス(GHG:CO2に換算)削減量の3分の1にしかならないという衝撃的な予想を公表した。パリ条約の下で各国が掲げるGHG削減目標を達成したとしても、今世紀末には気温が少なくとも3度上がる可能性が高いということだ。さらに、この警句を追いかけるように、地球温暖化による労働生産性の低下や感染症リスクの増加、さらに熱波に襲われる人は2050年には約10億人になる恐れがあるという英医学誌ランセットによる警笛(朝日新聞朝刊11月2日総合版)があり、全地球市民が深刻に受け止めなければならないことは明白である。
先月本年度の旭硝子財団のブル-プラネット賞を受賞した旧友のドイツのポツダム気候変動研究所所長のシュールフーバー教授による都内での講演会に参加したが、地球温暖化は既にポイント・オブ・ノーリターンに来ており、このままいけば2100年には単に陸地で想像を絶する大変動がおこるだけでなく、海面の上昇により多くの小島嶼国や海岸にある都市が水没する危険があると警告していた。各国政府も、地球温暖化を食い止めるためにはGHG削減は絶対に必要であるということについて、国際会議を通じて訴え続けている。しかし、一部EU諸国を除けば、各国政府がUNFCCCに提出したNDCの中身を見ると大変お粗末である。わが国の一般国民の間でも、国会、政府に対してGHG削減へ向けた望ましい積極的な働きかけが相変わらず少ないのを見ると、大変残念ながら我々が今世紀に直面する気候・地殻変動の重要性を十分認識されていないと考えざるを得ない。そこで、これに向けての世界の現状と我が国の長期戦略の在り方について、COP23の開会を契機に再度発信したい。
今日の持続不可能な社会の課題や脱炭素社会の構築の重要性については、1972年のストックホルムにおける「人間環境会議」以降、さらに1992年のブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連環境・開発首脳会議」(いわゆる地球サミット)の前後から、この分野の研究者やその他関係者の間では多々議論されてきた。しかし、それ以外の専門家では、大変残念ながら2015年のCOP21までは関心も低く、ましてや国民一般の間に理解が深まったとは感じられなかった。我が国では、国民一般の最大の関心事は、本年10月22日の衆議院選挙でも明白なように、北朝鮮の核開発や弾道ミサイルによる脅威、景気維持であり、加えて働き方改革、待機児童対策、持続可能な社会保障への改革、大地震、防災対策等々身近な問題であり、選挙運動期間中でも地球変動の深刻さを選挙民へ訴えていた候補者は与野党を通じて殆ど皆無であった。もっと衝撃的であったのは、公益財団法人日本国際フォーラムが今月1日ホテルオークラ東京で開催した設立30周年記念シンポジウム「パワー・トランジション時代の日本の総合外交戦略」で登壇した所謂有識者でさえ誰も、日本の総合外交戦略の一環として、地球環境保全に言及していなかったことである。世界を覆う経済成長の鈍化傾向、中近東・北アフリカの国内紛争・難民問題、北朝鮮問題が続く中で、人々の関心は目前の課題に集中しているのが現状である。ただ、近年日本全域を頻繁かつ強烈に襲った暴風雨・津波にみるように、地球温暖化が人間社会にもたらす諸々の被害に敏感な若者の間では、漸くその課題の深刻さ、重要性に対して、真正面から向き合う姿勢も徐々に広がっている。近年日本各地で開催される大学祭では、ごみの分別・回収を初め、省エネやエコ活動、電気自動車への関心が近年高まりを示しているのも、その一例である。
日本の産業界は、GHG排出量が最も大きいエネルギー生産部門でも、その排出が相対的に高い化石燃料依存型火力発電の継続を主唱しており、さらに不慮の爆発による人的・物的被害が極端に大きく、使用済み核燃料処理が高費用・不確定な原子力発電の存続に相変わらず固執している。我が国では、水力、風力、太陽光、バイオ発電等再生可能なエネルギー生産が総発電量に占める割合は、先進国で最低の7%に過ぎない。近年、環境に優しい投資案件に優遇金利を適用したり、グリーンボンドを発行する企業も徐々に観察されたり、本業での省エネ、省資源に本格的に取り組んでいる企業も国内各地で徐々に増えてきたが、相変わらず外資系企業や経済度同友会に加盟するグローバルコンパクト企業等一部の企業、特に大企業に限られているに過ぎない。日本政府、国会も、以上の国内事情を反映して、環境省や中央環境審議会の度重なる提案・提言にも拘らず、脱炭素社会の早期構築には消極的であり、昨年11月のCOP22へ提出した我が国のGHG排出削減目標も、2005年を基準に2030年までに26%という低目標であり、さらに昨年11月4日に発効したパリ条約の批准も遅れてしまった。国のGHG削減目標を上回る目標を設定している地方自治体や企業も徐々に多くなりつつあるが、まだごく少数に留まっている。(つづく)
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