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2017-07-21 18:05
(連載1)トランプ大統領は外交から手を引くべきだ
河村 洋
外交評論家
非常に嘆かわしいことに、ドナルド・トランプ大統領は選挙中の公約であった「アメリカ第一主義」を変えることもないばかりか、さらに痛ましいことには、彼の中東およびヨーロッパ歴訪の前に自らの政権の閣僚達が同盟国との相互信頼を再構築しようとした努力の一つ一つをぶち壊しにしてしまった。トランプ政権の発足からほどなくしてマイク・ペンス副大統領、レックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官らが訪欧して大西洋同盟へのアメリカの関与を再確認したことで、ヨーロッパ諸国民は安堵した。閣僚達はトランプ氏が大統領として国際舞台にデビューするお膳立てをした。しかしトランプ氏の歴訪は地域安全保障に対するアメリカの関与に疑念を抱かせるだけになった。今や我々はトランプ氏を安全保障上のリスクとして真剣に考える必要があるのは、国際安全保障でのアメリカの役割に関する彼の理解が乏しいからである。このリスクは同氏の選挙運動中から予期されていた。
まずトランプ氏のNATO首脳会議参加について述べたい。会議の場ではトランプ氏は条約第5条の相互防衛義務に言及しなかったことで米欧双方から深刻な懸念の声が挙がったが、それは歴代のアメリカ大統領が常にこれに言及してきたからである。さらに驚くことに、「選挙中にNATOは時代遅れだと言った時には、米欧の同盟関係についてよく知らなかった」とトランプ氏が認めたことである。それなら第5条の重要性を理解していなかったのも無理はない。トランプ氏が集団防衛の中核に言及しなかったことはヨーロッパの同盟諸国を驚愕させ、政権内の外交政策スタッフを当惑させた。実際にマティス長官とティラーソン長官とともに、H・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官はトランプ氏の演説原稿に第5条を含めるように進言した。しかしトランプ氏がそれに言及しなかったということは、彼らの専門的知識に敬意も払わぬどころか、どれほど危険であっても自分がやりたいようにやるということを意味する。それどころか、トランプ氏は夕食会でヨーロッパ同盟諸国の国防支出の少なさを非難した。さらにアメリカはヨーロッパ防衛から手を引いた方が良いとまでのたまった。ジム・タウンゼント元国務副次官補は「トランプ氏の不適切な発言は国家安全保障を担うだけの自制心が効かないことを示す」と辛辣に述べている。
そのような無知と人格的未熟性は中東でも問題をもたらしている。サウジアラビアによるアメリカへのインフラ投資を受け入れる一方で、トランプ氏は彼らにカタールへの非難と域内での孤立化を行なうことを許した。実際にトランプ氏の中東訪問での第一の関心は商取引であって、地域安全保障の複雑な事情については自らの政策顧問に耳を傾けなかった。カタールは相対的にイランに妥協的ではあるが、中東では最大の米海軍基地を提供している国でもある。実際に専制国家のサウジアラビアとそれに同調するエジプト、アラブ首長国連邦、バーレーンと言った国々はカタールでの報道の自由を恐れ、それが「アラブの春」をもたらしたと警戒している。よってサウジアラビアはトランプ氏に好条件な投資を持ちかけて媚びへつらいと敬意を渇望する彼の気持ちをくすぐり、カタールに対する外交関係断絶と制裁を認めさせた。
しかし、トランプ氏がサウジアラビアによるカタールへの圧力行使を認めてしまったことで、湾岸地域での対イラン同盟の強化どころか、地域大国の競合が複雑化した。トルコはカタール支援に介入してきたが、それはエルドアン政権が「アラブの春」においてエジプトでムスリム同胞団を支持しているからである。その結果、イラン、サウジアラビア、トルコの間で緊張が高まった。トランプ氏の無謀なアプローチはアメリカの中東政策をも混乱させている。議会においては共和党のボブ・コーカー上院議員はトランプ氏がツイッターでサウジアラビアとカタールの敵意を煽ることについて、外交委員長の立場から非難した。より深刻な問題は、大統領と国防総省との亀裂である。ペンタゴンと国務省はトランプ氏のサウジアラビア寄りな暴言からカタールを擁護している。 ヨーロッパと同様に、中東でも現政権の閣僚と政府官僚はダメージ・コントロールに多大な労力を投じざるを得ない。(つづく)
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